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レポート

SLiiiC サマー・ワーク・キャンプ2018

掲載:2018年11月29日

学校図書館プロジェクトSLiiiC(スリック)が主催する「サマー・ワーク・キャンプ2018」(以下、SWC2018)が、9月15日と16日の2日間にわたって開催されました。

初日がメインとなるイベントで、2日目はSWC2018の成果を振り返るアフタートークイベントという位置づけで、今回は初日のイベントに参加してきましたのでその様子を紹介します。

サマー・ワーク・キャンプ2018のリーフレット

今年に入ってから4回にわたって「SWC2018への道」と題したプレイベントも開催され、今日の本番に向けて時間をかけて練り上げられ、今回はその集大成としてのワークショップイベントとなりました。

SWC2018では、学校図書館関係者の「パフォーマンス&コミュニケーション"力"の向上」をテーマに、劇団とのコラボレーションという意外性に満ちた企画が実現しました。

今回、コラボレーションしたのは劇団フェリーちゃん[※1]で、プレイベントのときからSWC2018に向けて活動をともにし、今日は学校司書を題材とした演劇の上演も行われる予定になっています。

劇団とコラボレーションすることになった経緯について、SLiiiCの代表を務める横山寿美代さんは、「『パフォーマンスとコミュニケーション力』を鍛えたい、向上させたい、といったときにどうすればよいかと考えました。そして、それならやはりプロに教えを請うのが最良だという話になり、プロといえば役者だろう、ということになりました」と話します。

横山寿美代(よこやますみよ)さん SLiiiC代表の横山寿美代さん

そして、SLiiiCのメンバーである今井福司さんが劇団フェリーちゃんと以前より面識があったことから、今井さんが劇団との仲介役となって、今回の企画は動き出しました。

劇団フェリーちゃんの主宰者である、なにわえわみさんは最初にこの話を聞いたときは驚いたと話します。

「ちょうど1年前の夏頃に、学校図書館の司書と劇団がコラボレーションしたら何か面白いことができるんじゃないか、というお話をいただきました。最初は、え?というか、どういうことなんだろう?という感じでした(笑)。でも、お話をしていると、例えば、図書館でも読み聞かせとかしたりしますよね。そういうのとお芝居をするということは通じるものがあるんじゃないかと思いました」。

なにわえわみさん 劇団フェリーちゃんのなにわえわみさん

こうして意外とも思われる組み合わせで実現した今回のSWC2018。今日のイベントに期待を寄せる人たちも多かったようで、そうした参加者を迎えてイベントは大盛況となりました。

シアターミラクル

さて、今回は演劇の上演があるということをふまえて、新宿のシアターミラクルという小劇場が会場に選ばれました。

開場前に訪ねると、劇場という環境のせいか普段のワークショップとは違った雰囲気があり、準備を進める関係者の皆さんもどこか楽しそうで、それがよい緊張感となっているようにもみえます。

4_172_2302_14b.jpg開場前、準備中の様子

今回のイベントは、前半がワークショップで、劇団フェリーちゃんによる「声の出し方講座」と、SLiiiCによる「3分でわかる学校図書館講座」と「これがグループ・ブックトークだ!」、後半がSLiiiCと劇団フェリーちゃんとで作り上げてきた演劇『新涼灯火の司書物語。』の上演があり、最後はその出演者も交えてのアフタートークという構成で開催されました。

今回、演劇を上演するということで、いつものSLiiiCのイベントとは異なり、演劇を目的とした一般の参加者が来場することも予想されます。

横山さんは「そういった学校図書館と関わりのない人たちにも、ぜひワークショップも体験してもらいたい」と話します。今回の企画を通じて「演劇関係の人が学校図書館のことを知り、そして学校図書館関係者がこういう小劇場の人たちを知る、そういう異業種のまさにコラボレーションですね。すごく面白いと思います」と楽しそうに語ってくれました。

前売りのチケットは完売しており、午前11時30分の開場とともに、客席も次々とうまっていきます。

SLiiiCのメンバーの中には、後半の演劇を目当てとして来場する観客も多いのでは、という懸念もあったようです。しかし、開始時には8割程度の客席がうまっており、ワークショップ開始後も遅れて参加する来場者が続き、グループ・ブックトークのワークショップが開催される頃にはほぼすべての客席がうまっているという中でイベントは進行されました。

声の出し方講座

「声の出し方講座」で講師を務めるのは、劇団フェリーちゃんのなにわえさんです。

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なにわえさんは、小さいころから役者になりたいと思い、大学までずっと演劇部に所属していたそうです。一方で、中学の頃からは声楽を、さらに大学では歌、オペラを学び、現在はボイストレーナーのお仕事もされているという、「声」についてのプロフェッショナルです。

そんな、なにわえさんによる声の出し方講座は、会場の参加者も椅子から立って、身体の緊張をほぐすストレッチから実際に声を出してみるまでを学ぶというワークショップでした。

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良い声を出すには「呼吸」と「響き」の2つが重要とのことで、声を出すための体のしくみから、腹式呼吸についてなど、なにわえさんの親しみやすい語り口とともにリラックスした雰囲気の中で進められました。

「実は、声の出し方で悩んでいる学校司書というのは案外多いんですよ」と横山さん。「ボイストレーニングのような、そういうフィジカルなスキルというのはやはり教わらないとなかなかわからないですよね。だから、学んで自信を持つことができれば、どんどん仕事につなげていくことができるはずなので、こういうワークショップとか、これからも続けていけたらいいなと思っています」と話してくれました。

3分間でわかる学校図書館講座

横山さんによる「3分間でわかる学校図書館講座」は、今回、学校図書館関係者以外の参加者もいることを前提として、そうした参加者にも「学校図書館とは何か」ということを伝えようとしていることが良くわかる講座でした。

手書きのかわいらしいイラストの入ったフリップを使用し、横山さんの軽妙な語り口でテンポよく、コンパクトでわかりやすくまとめられた内容で、会場からもときおり笑い声がこぼれたりもしていました。

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「学校図書館は単に図書館であるだけでなく、教育的設備であるということ。これは『読書』と『学習』、両方の役に立つべきもの」という学校図書館についての基本的な話から、教師という仕事と兼任となるため活動時間がままならない司書教諭、勤務時間の短さや、複数の学校図書館のかけもちを余儀なくされている学校司書など、厳しい現状の話もありました。

それでも「一番大切なのは『本』、そして『児童生徒』であり、そのためにも学校図書館を盛り立てていかなくてはならない」という横山さんの言葉が印象的でした。

予定時間を多少超過し、「4分かかってしまいましたね(笑)」と締めくくられました。

これがグループ・ブックトークだ!

続く「グループ・ブックトーク」のワークショップも、引き続き、横山さんが進行を務めます。

SLiiiCでは、SWC2018のテーマである「パフォーマンス&コミュニケーション"力"の向上」のためにも、グループ・ブックトークは研修の手段として有用であると考え、これまでの「SWC2018への道」でもこのグループ・ブックトークのワークショップを行なってきました。

まず、そもそもブックトークとは次のように定義されています。

ブックトークとは、あるテーマに関連付けて複数の本を選び、それらの本をつないで紹介すること。ブックトークは聞き手に本の魅力や特徴を伝え、読みたい気持ちを刺激することを目的とする。

『ブックトーク再考』 学校図書館問題研究会「ブックトークの本」編集委員会(編)
教育史料出版会 2003年 p.119

それをふまえ、今回、SLiiiCはグループ・ブックトークの定義を以下のように提言しました。

グループ・ブックトークとは
  1. グループ(通常3~5人)で、
  2. あるテーマ(キーワード)に添って、
  3. ひとり1冊ずつの本を、
  4. メンバーからメンバーへと橋渡ししながら紹介する
ことである。

そして、言葉だけでは十分に伝わらないかもしれないということで、ステージ上で実際にグループ・ブックトークが実演されました。

この日も、本当は「SWC2018への道」でグループ・ブックトークを作り上げた4人のメンバーで実演する予定だったそうですが、都合によりそれがかなわなかったとのことです。そのため、「SWCへの道 その4」でも披露された横山さんによる「かえるのグループ・ブックトーク」の実演となりました。

かえるのぬいぐるみ5体を使った「かえるのグループ・ブックトーク」は、横山さんが学校で子供たちにグループ・ブックトークを教えるために普段から実践しているものだそうで、それぞれのかえるをグループ・ブックトークの参加者に見立てて、一人五役をこなす横山さんの、まさに「パフォーマンス」でした。

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「かえるのグループ・ブックトーク」に続いては、参加者が実際にグループ・ブックトークを体験するワークショップが行なわれました。

ただし、グループ・ブックトークを作るには十分な時間がないため、参加者を数名のグループに分け、用意された絵本を使って、メンバーがそれぞれ選んだ本をもとにグループで話し合い、グループ・ブックトークの「テーマ」と「タイトル」を決める、という内容です。

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グループ・ブックトークの経験者や学校図書館司書の方が各グループに配置されていたようですが、それでも初めて顔合わせするメンバーと思えないほど、皆さん、積極的に意見を交わしあい、短い時間内で話をまとめ上げていました。そして、各グループによる「テーマ」と「タイトル」の発表においては、「テーマ」や「タイトル」だけにとどまらず、ちゃんとしたグループ・ブックトークを完成させているグループもあり、参加者の皆さんのコミュニケーション力の高さに驚かされました。

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グループ・ブックトークを以前にも経験したことがある参加者のひとりは、グループ・ブックトークを行なうことで「自分がいかに独りよがりであるかということに気づく」と語っていました。それについて横山さんも「その通りで、本について話し合うことで、人と自分はこんなに考え方が違うんだ、こういう読み方もあるんだ、ということに気づかされるんです」と話していました。

そして「グループ・ブックトークというこの手法は、本当にまだ始まったばかりなので、今後も継続して取り組んでいきたい」とのことでした。

新涼灯火の司書物語。

しばしの休憩時間をはさんで、いよいよ『新涼灯火の司書物語。』の上演です。

休憩時間中にも、演劇を見るために来場者はさらに増え、スタッフの皆さんが急いで追加の席を用意していましたが、それも開演時間になるまでにはほぼ満席になり、最終的には52名の参加者で会場は満たされました。

今回の劇のリーフレットに記載されている物語のあらすじを紹介します。

都内某中学校図書室にて、グループ・ブックトークの練習に取り組む4人。
教職を辞して自身の子育てを終えた後、図書館司書として学校に戻った新井朋子。
学校図書館司書一筋、あふれる情熱が時折空回りしがちなベテラン司書、涼松啓子。
図書館業務を任された若手教員、まじめさ故の不器用さに苦しむ灯下葉月。
灯下の元同級生であり、大学院に籍を置いて教育学を研究している火野あけみ。
それぞれ胸のうちには、ちょっとした悩みや不安がある様子。
そしてそんな彼女たちを見守る、謎の少女の正体は…?

「新涼灯火」という言葉をタイトルに選んだことについて、今回の劇で脚本と演出を担当したなにわえさんに聞いてみると、「この言葉は、"ちょうど秋の初めの涼しくなり始めた頃っていうのは、灯りの下で読書をするのにふさわしい季節ですね"、という意味で、今回の季節的にも、学校図書館という題材としてもぴったりだと思って、『新涼灯火の司書物語。』というタイトルをつけました」とのことでした。

そして「登場人物の4人の名前にはそれぞれ『新涼灯火』の一文字をつけていますよ」とも教えてくれました。

4_172_2302_10a.jpg (上演中は撮影できないため、リハーサルの様子を撮影しています)

上演時間30分という短い物語ですが、学校図書館のおかれた厳しい現状をふまえながらも、笑いもまじえつつ、最後には心温まるお伽話のような物語で、客席からも惜しみない拍手が送られていました。

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ストーリーを組み立てるにあたって、なにわえさんは、学校図書館司書のなるべくリアルな声や、現場で本当に起こっていることなどをしっかりと書いていきたかったそうです。

「今回、劇を観ていただいた方が元気になる、励まされるものにしたい、という話があったんですが、きれいごとにするのではなく、『こうなったらいいね』というよりは『こういう状態だけどここから何ができるのか』という感じで、身に迫って考えるものにできたらいいな、というのがありました」。

なにわえさんのご両親は教員をされているそうで、なにわえさん自身も教員免許を持っているとのこと。そうした環境で実際に教員をしている人たちから聞いた現場の悩みや苦労なども、今回の物語に反映しているそうです。

SWC2018

SLiiiCと劇団フェリーちゃんは、「SWC2018への道 その1」から今日まで『新涼灯火の司書物語。』をゼロから作り上げてきました。

その経験は、なにわえさんにとって「とても印象深かった」そうで、「お芝居の界隈にはいない方たち、別分野の方たちと一緒にお仕事をするというのが普段はあまりなくて、苦労をしたというよりはとても面白かったですね」と語ってくれました。

劇団とコラボレーションし、最終的には演劇を上演するという話が発案されてから、実際にこのSWC2018での上演にまで至ったということが、関係者の皆さんの並々ならぬ熱意によるものだということは想像に難くありません。

お互いに協力しながら作業をすすめていくにしたがって、「化学変化が起きつつある」と横山さんは感じていたそうです。

「劇づくりの最初から私たちも脚本を見せてもらっていました。それで『あ、ここ、こういう言い回しはしませんよ』とか、そういうことが言えるような環境でしたし、劇団側の人たちもそれをとても喜んでくださったんです。脚本というのは作品だから、本当は外から口を出しちゃいけないだろうとは思うんですけど、それをむしろ受け入れてくれたんですね」。

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同様になにわえさんも「自分たちが当たり前だと思うことが相手の当たり前じゃなくて、例えば、ちょっとした言葉の使い方とか、傍から見ているとみんな同じに感じている言葉が、『それは図書館の人は絶対に使わない言葉だよ』というようなこととか、ひとつひとつの経験がすごく新鮮でした」と話します。

こうした二人の言葉からも、異なる分野の人たちがここまでにとても良い関係を築きあげてきたことがうかがえ、SLiiiCと劇団フェリーちゃんというSWC2018をともに作り上げてきた皆さんが、今回の成果に確かな手ごたえを感じているようでした。

なにわえさんは最後に、これまで一緒に活動してきたSLiiiCのメンバーについて、「皆さん、とても元気で、情熱的」だったと話してくれました。

「皆さん、とても元気で、情熱的。何に対しても『なんとかこれをよくしよう』、『私たちにはまだできることがあるよ』という、その熱量の大きさに本当に感動しました。いろいろなものを皆さんから受け取って、だから私も頑張らないと(笑)、と思いましたね」。

そうした「熱さ」は今日のこの会場でも感じることができましたし、実際に私たちも参加してみて、学校図書館と演劇のコラボレーションという新しい試みによる今回のSWC2018は、参加した皆さんが刺激や元気をもらえるような時間だったと思います。

取材/秋葉小夜子、南雲知也、文/野村雄一
(株式会社ブレインテック)

  • [※1]
    劇団フェリーちゃん
    劇団のウェブサイトはこちら