Jcross(ジェイクロス)| 図書館と図書館にかかわる人たちのサイト

なかの人たち

第8回 河瀬裕子 様くまもと森都心プラザ図書館

掲載:2015年10月29日

くまもと森都心(しんとしん)プラザは、図書館、ビジネス支援センター、貸ホール・会議室、郷土情報センターなどが入ったビルで、2~6階部分はくまもと森都心プラザ管理運営共同企業体を指定管理者として運営されている、JR熊本駅周辺再開発のシンボル的な存在です。

2011年にオープンしたプラザ図書館(指定管理者:株式会社紀伊國屋書店)はくまもと森都心プラザの3・4階部分にあり、全国初のビジネス支援センターを併設した図書館で、開館から1年余で入館者数100万人を達成するなど、九州地区に留まらず全国的にも注目されている公共図書館です。今回は、このプラザ図書館の副館長である河瀬裕子さんにお話をうかがいます。

河瀬 裕子 様
くまもと森都心プラザ図書館
〒860-0047 熊本市西区春日1丁目14番1号
Webサイト
http://stsplaza.jp/library/index.html
掲載している情報は2015年10月現在のものです。

“図書館空間”の中に自分がいるのが好き

図書館にかかわるようになったきっかけはなんですか?

河瀬裕子さん(以下、敬称略)小学生のころから“図書館空間”が好きで入り浸っていて、将来は図書館司書になる!と言っていましたね。

“図書館空間”が好きということは、本が好きというより、図書館という場が好き、ということでしょうか?

河瀬結局、本もたくさん読んでいるんですが、今思えば、本が目的じゃなくて、そこに行く、図書館の中に入ってそこの空間の中に自分がいる、というのが好きだったのかなと。図書館に行って本を読んで…「におい」とかがすきなんですよね、図書館の。

河瀬さんが入り浸っていたという図書館は、公共図書館ですか?

河瀬いえ、学校図書館です。私の生まれ育った町には公共図書館がなかったので。
実は、その町に初めて公共図書館ができるっていうときに、その開館準備に携わったのが私の公共図書館での仕事のスタートでした。これは、すごいラッキーなことだったなと思ってます。

公共図書館での仕事のスタートが生まれ育った町の図書館の開館準備ということでしたが、今の職場で働き始める前までのお仕事についてお話をお聞きかせいただけますか?

河瀬最初は一般企業で、開発担当でした。

何を作っていたんですか?

河瀬なんか、時代がばれるんで嫌なんですが(笑)、ポケベル通報システムとか…。
工場のラインが止まった時に、責任者の方のポケベルに通報を出して、画面ではヘルプ画面を自動的に出して説明をひっぱってきて…みたいな仕組みです。でも、それをやっているうちにポケベルがなくなっちゃったんで(笑)。

ポケベルの全盛期はけっこう短かったので、確かに年代特定できちゃいますね(笑)。

河瀬もうその辺あまり追及しないで(笑)。

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公共図書館のお仕事は、ここまで全部、新館の開館準備

そこから、図書館の仕事にはどうやってつながっていったのでしょうか?

河瀬それは・・私の場合、全部人との「ご縁」なんですけれど。
結婚することになって、最初に勤めた企業を辞めて一旦家庭に入ったんですね。それで、結婚するときに同級生がみんなでお祝いするよって言ってくれたんですが、なんか人数が集まりすぎちゃって同窓会みたいになっちゃって…担任の先生まで来られたんですよ。
その時に先生に「そういえばお前、司書になりたいって言ってたけどどうなったの?」って言われたので、「資格は取ったけどなかなか就職するのは難しくって」っていう話をしてたんです。そうしたら、結婚して3か月目にその先生から連絡があって「学校司書を探しているんだけど、来ませんか?」って誘っていただいて、もう、一も二も無く。

それが「ご縁」の始まりですね。

河瀬実は、今の職場のスタッフの中に、その学校図書館にいた時の生徒がいるんです。ほんとに偶然で、スタッフ面接の時に、お互い「あーっ!」ってなったんですが、その子は、その学校図書館の時に図書館が好きになってくれて、司書の資格がんばって取ったそうなんですね。

そんな「ご縁」もあるんですね。

河瀬その学校図書館に配置されたときは、それまで誰も人が入っていなくて、要は管理も何もされてなかったという状態のところでバーコードラベル貼ったりデータ入力したりっていうことをやったんです。
小さいですけど、そういう1つの図書館の開館準備をやったっていうのが、たまたま役場の方の耳に入って、「そういう経験があるならやってみませんか?」って生まれ育った町、鹿本町(合併により現在は山鹿市鹿本町)の図書館の開館準備の仕事が来たんです。
そこが開館して5年で、また次の仕事のお話を頂いて、次は熊本空港のある益城町の図書館で、これも新館の開館準備で。またそこが立ち上がって4年経って、一通り流れができたところで、今のプラザ図書館に来ました。

今の、くまもと森都心プラザ図書館も開館準備のときからのお仕事ですよね?

河瀬はい。公共図書館のお仕事は3館目ですが、ここまで全部、新館の開館準備ばっかりさせていただいて。

プラザ図書館の開館準備に関わることになったのはどういう経緯だったのでしょうか。

河瀬プラザ図書館は、計画の段階から、駅前だし絶対面白いことになるだろうから行きたい行きたい、って思ってて、普通に求人広告を見て、スタッフの面接に行きました。
田中榮博さん[※1]が館長になるということで、とにかく「面接で田中館長に会える!」って思って面接を受けに行ったんです。それで、普通のスタッフ面接を受けて、採用の連絡があったんですが、電話で「採用です」「ありがとうございます」「で、副館長もやってほしいんですが」「えっ!」って(笑)。

最初から副館長としての採用面接ではなかったんですね。

全然関係ない人と人が出会う、というのが好き

くまもと森都心プラザもプラザ図書館も、オープン以来色々と注目されている図書館ですが、”なかの人”である河瀬さんから見ていかがでしょうか?
河瀬さんのお気に入りポイントなどがあれば教えてください。

河瀬そうですね、その日の気分や目的で使うエリアを変えられるところはいいと思いますね。例えば、今日は資格試験の勉強をしたいなって思ったら学習室に行けばいいし、窓際で本を読みたいと思ったらそれもできる。子どもの本を選びたいなっていうのも、「子どもと選ぼう」もできるし「一人で選ぼう」もできるとか。ゾーニングを考えているので、3階も4階も、用途に応じて使い分けられるところが好きですね。

中小企業診断士が経営上の相談などに応じる「ビジネス支援センター」を、図書館に併設したという取り組みも、全国初だったとか。

河瀬開館して4年目ですけど、最初は図書館もビジネス支援センターの先生方も、全く前例がなかったのでどう連携していいか、どこまで踏み込んでいいかわからなくて。それが最近になってやっと、定期的に打合せして一緒に事業やっていきましょうよとか、もっと気軽に行き来できるように、ということがやっと形になってきました。
もちろんそれまでも、図書館で受けたレファレンスで図書館の範囲を越えたものをビジネス支援センターにお渡しするとか、ビジネス支援センターに起業相談に来た方に図書館の資料を案内するといったことはやっていて、「お客様を介して」の連携はあったんですが、図書館とビジネス支援センターの「人同士」のつながりが薄かった、っていうことですね。

一緒にというと、具体的にどんなことがありますか?

河瀬例えば、図書館で「図書館をこんな風に使えますよ」という図書館活用セミナーを年6回やっているんですけど、そこに中小企業診断士や行政書士の先生方に入っていただいて、起業相談とかもしますよ、っていうような。やっと自分たちで「あ、これかな」というのができつつあります。

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セミナーと言えば、プラザ図書館のWebサイトを拝見すると毎日のようにイベントやセミナーが行われていますね。

河瀬小さいのも入れると、年間150本とかやってますね。市が指定管理者に出す「これだけやってくださいよ」という指定事業と、こちら(指定管理者)側が「やりますよ」と言った提案事業があるんですが、両方が一緒になったらこの数になってしまって。

自主事業も含めてそれだけイベントをたくさん実施するということは、かなり大変なことではないかと思うのですが。

河瀬まず、くまもと森都心プラザとプラザ図書館を知ってもらおうというのがあります。熊本駅前が再開発で変わっていっているんですが、ふだん市民のみなさんの来るエリアではないので、変わっていることをご存知ない方が多いんです。で、「駅前が新しくなって、プラザっていうのがあって、そこでこんな面白いことやってるよ」というのをPRし続けないといけない。
でも、打ち上げ花火で終わってしまうといけないので、そのイベントが、必ず何かしら他の事業につながっていくようにという仕掛けにしているつもりです。

プラザで開催されているイベントの中には、「紛争解決学入門」「熊本の地下水の持続的利用..」といった、一見図書館とあまり関係のなさそうなテーマもありますね。

河瀬図書館にはどんな分野の本でもあるので、図書館に無関係なことってあるはずがないじゃないですか。どんなイベントをやっても、何かしらの本とつながるので、図書館のイベントって、何をやってもOKかなって思ってるんです。イベントは一瞬で終わるけど、本は残っていくじゃないですか。そこから、また別のイベントに繋がってもいいし。

イベントはプラザや図書館を知ってもらう手段だとおっしゃっていましたが、お話をうかがっていると、河瀬さんご自身、とてもイベントがお好きなのかなと思いましたが、いかがでしょう?

河瀬好きですね。イベントというか、全然関係ない人と人が出会うというのが好きです。

副館長の仕事は“賑やかし”

河瀬さんは、プラザ図書館の副館長ということですが、館内での河瀬さんの立場やお仕事はどういうものなのでしょうか。

河瀬“賑やかし”ですね(笑)。
…他に言いようがないんです。決まった仕事があるわけではないので、事務処理もするし、外部の方とのやりとりもするし、カウンターにも立つし、スタッフの話を聞くのに一日費やすこともあります。番号札配って、順番に話を聞くんです(笑)。

スタッフの方は何人いるんですか?

河瀬今は34人です。年齢は、自分の母のような年の人もいるし、さっき言ったように元生徒だった人もいるし。で、図書館員ってみんな個性的で(笑)。

「なかの人の一日」を拝見すると、一日の中で「フロアの巡回」というのをけっこう長い時間かけてやっていらっしゃいますね。具体的にはどんなことをされているんでしょうか?

河瀬死角になる部分を見て回ったりとか、棚の乱れも見ますし、「あ、これ次の号が入ってないよ」とか指摘もするし、色々気づいた細かいことをスタッフに伝えて。
何事も無ければ、できるだけ毎日何時間かはそれをやってます。スタッフは、「そういうの私たちがしますよ」って言ってくれるんですが、そういう時間がないと、完全に事務仕事だけで終わっちゃうので、まずいかなって思ってるんです。プラス、怒られ担当ですね(笑)。

河瀬さん自身が「好き」とか「得意」な業務というのはありますか?

河瀬カウンター業務が好きですね。今はほとんどカウンターに立つ時間がないので悲しいです。カウンターとお話し会の時は、「全然顔が違う、そんな笑顔見たことない」ってスタッフに言われてます(笑)。
お話し会では、私は絵本を紹介する人なので、「私」が目立たないように、この本をすみからすみまでご提供する、という感じでやります。今は、お話し会をするスタッフの指導もするんですが「自分も絵を見て楽しんで、絵から感性を受けて」と。そうして読むと、ちゃんとした声になるんです。

面白いものがあれば、そこに。

プラザ図書館の次の職場について何か考えていることはありますか?たとえば「開館準備の仕事はもういいかな」とか「一つのところで長くやりたい」とか「つぎは館長やりたいな」とか(笑)。

河瀬そういうのは無いですね。まだやりたいことがいっぱいある。これもやりたい、あれもやりたいって。こだわりはなーんにもないですね(笑)。面白いものがあればそこに。
私の場合、最初の時に自分で図面もひかせてもらったりして、とにかく自分が図書館でやりたいことの凝縮版を作っちゃったんで、それ以上のものがまだ今無いんですよ。だから「館長をやりたい」とかっていうのも特にないですね。
今はたまたま副館長っていう名前を頂いているだけで、契約更新してもらえなければ、どっかの図書館で、臨時職員でカウンターに座っているかもしれない。

河瀬さんにとって図書館員であることとか、図書館で働くということはどういうことですか?

河瀬私の中心、ですね。

それは、職業というよりもっと強い何かということでしょうか?

河瀬そうですね。家族には本当に申し訳ないんですけど。
でも、夫も娘も私の両親も、私が図書館で仕事をするには自分たちがどういうサポートをしたらいいか、っていつも考えてくれるんで、それに応えるには中途半端じゃなくて、がむしゃらにやんなきゃいけないかなって思ってます。

河瀬さんの活躍は、きっと家族のみなさんの希望でもあるんですね。

河瀬もう逆にプレッシャーです(笑)。

そんな河瀬さんから見て、これからの図書館、公共図書館について思うことはありますか?

河瀬図書館はもっと、地域活性化にどれだけ貢献できるか?貢献できますよ!と、自らアピールする力強い施設になってほしいし、なれると思っています。

それは、まさに今、プラザ図書館でやっていることでもありますね。

河瀬そうですね。

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「本を読まないけど人が好き」だったらOK

これから図書館で働きたい、と思っている若い人たちに何か伝えるとすると、何でしょう?

河瀬図書館員だからって、本好きじゃなくてもいい。何でもいいので、何か一つとことん好きなものがあれば、それが何かしらの情報として、ものすごく活用できるかもしれない。ただ、人とか情報とか、そういうところに敏感であってほしいです。
今、プラザで中・高・大学生のインターンシップの受け入れとかをすると、ほぼほぼ「本が好き、人と話すの嫌い、司書になりたい」っていう人が来るんだけど、「それ、無理ですよ」って初日に言います。逆に「本を読まないけど人が好き」だったらOKって言うんですけど。
本当に、人、人脈って大事です。図書館ってどこも基本的にお金を持ってないですけど、人のつながりでカバーできることってけっこうあります。

ここまで、人との「ご縁」を大事にして歩んでこられた河瀬さんの言葉だけに、とても説得力がありますね。


プラザ図書館の第1期はもうすぐ終わることになりますが、形にはこだわらず、常に新しいことを仕掛けていく中心にいるであろう河瀬さんを、これからもJcrossは応援していきたいと思います。

なかの人たちのとある一日

12:15~ 勤務開始のミーティング
12:30~ メール・郵便物チェック
館長と打合せ
スタッフと打合せ(順番待ちができるので、2番でお待ちの方~と呼びます)
16:00~ 休憩(母が作ったお弁当・カップめん・デザート・スナック菓子・コーヒー)
17:00~20:00 フロアにて排架・巡回
20:00~ 閉館後作業
22:00 帰宅後に夕食(がっつり) そして夜食
  • [※1]
    田中榮博氏
    現くまもと森都心プラザ図書館長(前職は千代田区立千代田図書館長)