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専門図書館見学記

市民福祉大学 福祉ライブラリー

掲載:2026年2月10日
図書館名
(社福)神戸市社会福祉協議会市民福祉大学 福祉ライブラリー
住所
〒651-0086 神戸市中央区磯上通 3-1-32こうべ市民福祉交流センター2F
URL
https://www.with-kobe.or.jp/detail/fukushi_lib/
電話番号
078-271-5307

震災の記憶を未来へつなぐ、リニューアルで生まれ変わった「居心地の良い」学び舎

今回訪れたのは、市民の「普段の暮らしの幸せ」に寄り添い、福祉の専門家と市民の学びを支え続ける特別な場所、神戸市社会福祉協議会市民福祉大学に併設された福祉ライブラリーです。福祉を専門とする専門性の高い蔵書が集積したこの空間は、単なる図書館ではなく、社会の課題と向き合う人々にとっての心安らぐ学び舎となっています。その独自の役割と、リニューアルを経て得た居心地の良さを、詳しくご紹介します。

市民福祉大学という学びの拠点

市民福祉大学は、市民の皆さんが「福祉」への理解を深め、地域社会へ積極的に参加していくことを目的として運営されている研修機関です。名称に「大学」とありますが、これは学校教育法に基づく大学ではなく、福祉専門職や、「地域のために何かをしたい」と考える一般市民を対象とした福祉の学びを体系的に提供する場として機能しています。

設立は平成6年(1994年)4月1日。当時、神戸市社会福祉協議会(市社協)が各部署で個々に行っていた研修を、市民啓発も含めた人材育成という大きな視点から、より系統的かつ専門的に行う部署としてまとめる必要性があったことが背景にあります。また、福祉の人材マッチング機能を持つ施設の名称として「福祉人材センター」が使用できなかった当時の歴史的事情から、「市民福祉大学」という独自の名称が採用されました。建物自体もこの年に完成し、以来、福祉人材育成の拠点として歩み続けています。

暮らしの幸せを支える専門図書館の役割

市民福祉大学に併設されている福祉ライブラリーは、開校と同時期である平成6年4月1日に開設されました。以来約30年にわたり、同じ場所で福祉の学びを支え続けています。

このライブラリーは、福祉に関心のある一般市民から専門職まで、幅広い層に対して学びの機会を提供しています。特に、福祉の語源的な意味合いでもある『市民の「普段の暮らしの幸せ」』に直結する情報を提供する専門図書館としての役割を担っています。

福祉ライブラリーの最大の魅力は、専門性の深さにあります。

蔵書は、図書、DVD、資料、雑誌を合わせて、全部で約10,900点を数え、そのうち図書が約8,000〜9,000冊を占めています。特筆すべきは、蔵書の95~98%が、福祉とその関連分野(教育、医療など)の専門資料で構成されていることです。こうした専門資料の集積を支えているのが、日々利用者の学びや調べものをサポートするスタッフの存在です。専門的なニーズに応える資料の提案や、時代の変化を捉えたスピード感のある選書など、スタッフによる細やかな運営が、この高い専門性を支える重要な柱となっています。

また、ここでは福祉を学ぶ人や専門職の実務・学習支援資料が充実しています。介護福祉士や社会福祉士など、国家試験の対策に必要な教科書や問題集が一通り揃っており、これから勉強を始めようという方が、必要な科目をまとめて手に取って見比べられるのは、非常に心強い環境です。さらに、個人の購入が難しい白書や診療報酬に関する資料など、行政や制度に関する最新の情報源も集め、専門職の知識アップデートを支えています。

そして、このライブラリーが持つもう一つの重要な側面が「神戸」という土地との結びつきです。歴史的な価値を持つ資料として、阪神・淡路大震災の経験から、市社協が担った災害ボランティア活動の貴重な記録や資料も多く保管されており、その歴史的な価値も大きな強みとなっています。震災を経験した神戸にある専門図書館だからこそ果たせる、記憶の継承という役割がここに息づいています。

リニューアルで生まれた「居心地の良さ」と空間の工夫

福祉ライブラリーは、近年、大規模なリニューアルを実施しました。きっかけは、2024年の南海トラフ地震臨時情報が出た際、書架の耐震化(固定)が計画されたことです。書架を固定する費用とレイアウトを大幅に変更する費用が同程度であったため、この機会に雰囲気を一新することが決定されました。新しく導入された家具は、コスト効率を保ちつつも北欧風のモダンで機能的なデザインが選ばれ、空間を明るく彩っています。また、実際の休館期間をわずか1週間に抑えるという、驚くほどスピーディーな工程で集中改修が行われました。リニューアル後のアンケートでは、利用者の90%が「居心地の良さ」に満足しているという結果が出たそうです。

利用のしやすさにも工夫があります。神戸市や近隣市町村の住民は10冊を4週間借りることができ、返却は郵送も可能です。また、メインスペースでは毎月テーマが変わる「マンスリー展示」を実施。最近では、外国籍の研修受講者の増加に対応した「やさしい日本語コーナー」や、福祉関連の漫画セット貸し、静かに集中できる自習スペースの提供など、福祉にまだ詳しくない方でも「ちょっと行ってみようかな」と思える仕掛けがなされています。

また、現場の判断で迅速に本を購入できる仕組みがあるため、新聞で紹介された話題の本をすぐに開架へ並べるなど、スピード感のある情報提供が利用者から喜ばれています。こうした物理的な居心地の良さと、SNSを活用した情報発信、そしてスタッフによる柔軟な運営が組み合わさることで、時代のニーズに合った図書館へと進化を遂げています。

福祉ライブラリーが誇る「特別な資料」

ライブラリーの専門性、地域との深いつながり、そして研修との連携という独自の強みが際立つ資料をライブラリー担当のお二人に紹介していただきました。

歴史的価値を持つ資料:震災・災害ボランティア関連

まず、歴史的な価値を持つ資料として、震災・災害ボランティア関連の資料群が挙げられます。特に、阪神・淡路大震災の記録と災害ボランティア資料は貴重です。社会福祉協議会が担う災害ボランティアの仕組み作りは、この震災での取り組みが「最初の一歩」でした。そのため、市民の会がまとめた記録や、社会福祉法人大阪ボランティア協会でまとめられた報告書など、他ではなかなか手に入らない貴重な資料が大切に保管されています。これは、未来の災害ボランティア活動を考える上で欠かせない、大切な教訓の詰まった資料と言えます。

研修と連携した話題の資料 — 心に響く実体験

次に、市民福祉大学の研修と密接に連携した資料の紹介です。認知症をテーマにした脳科学者である恩蔵絢子さんの著書は、認知症になったお母様を科学者の視点で観察した記録であり、講演会と連動して展示することで、専門的な知識と当事者としての深い学びを提供しています。

また、作家・岸田奈美さんの母(岸田ひろ実さん)の著書も人気です。ダウン症の息子を介護しながら自身も車椅子ユーザーとなった体験が綴られています。講演会のサイン色紙やチラシとともに展示されることで、実体験に基づく学びの「濃度」をぐっと高め、読者の心に響くような工夫がされています。

専門家・学習者向けの必携資料

そして、専門家や学習者向けの必携資料が揃っていることも大きな強みです。介護福祉士、社会福祉士などの国家試験対策の教科書や問題集が豊富にあり、これから勉強を始める人が必要な勉強をすべて見比べられるのは、本当に心強い環境です。さらに、高額な白書や診療報酬に関する資料といった行政資料も貸出可能です。これらは、現場の従事者が知識をアップデートし、ケアの間違いを防ぐために欠かせない資料であり、専門図書館ならではの重要な役割を果たしています。

最後に— 専門性と市民に開かれた場所—

市民福祉大学 福祉ライブラリーは、福祉に関する専門的な学びと市民啓発という大切な使命を担う研修機関の一部として、平成6年の開校以来、約30年間にわたりその役割を果たし続けています。

このライブラリーが掲げるのは、福祉の原点である「普段の暮らしの幸せ」という広いテーマです。地域住民や専門職に対し、その幸せに寄り添う情報と、心安らぐ居場所を提供しています。

近年は、大規模なリニューアルによって「居心地の良さ」が大幅に向上し、専門図書館でありながら、幅広い市民に開かれた、誰もが気軽に立ち寄れる場所へと進化しました。

今後も、高校生や、新しい学びを求める層への働きかけ、そして専門図書館としての強みを最大限に活かした「より深い進化」を目指し、市民の福祉人材育成という大切な使命をもって運営が続けられていきます。

見学者
林一裕 (株式会社ブレインテック)
見学した専門図書館
(社福)神戸市社会福祉協議会市民福祉大学 福祉ライブラリー