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専門図書館見学記

科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー(神奈川県立川崎図書館)

掲載:2016年8月1日
図書館名
科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー(神奈川県立川崎図書館)
住所
横浜市港南区野庭町1660
神奈川県教育局生涯学習部文化遺産課収蔵センター(旧神奈川県立野庭高等学校)
URL
デポジット・ライブラリーのご案内 - 神奈川県資料室研究会

デポジット・ライブラリーって何?

大きな企業や大学に所属する研究者でなくても、多くの貴重な海外の学術雑誌を閲覧・複写することができる図書館があることをご存知ですか?

毎回、様々な専門図書館のご紹介をしている「専門図書館見学記」。今回見学したのは、神奈川県立川崎図書館と神奈川県資料室研究会(以下、神資研)の協同事業である「科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー」です。デポジット・ライブラリーというのは、資料の保存を主要な目的とする図書館のこと。今回見学した「科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー」(以下、デポジット・ライブラリー)は、工学、物理学、化学等の分野の洋雑誌に特化し、企業の資料室と県立川崎図書館が協同で構築したという、全国的にも珍しい取り組みです。

立ち上げから10年を経過した2015年には、外部識者に委託しコレクション評価を実施。世界的な抄録・引用データベースにおいても評価の高い雑誌を多く所蔵している、神奈川県内の研究者需要の高い雑誌や国立国会図書館でも所蔵していない雑誌も多く所蔵している、といった高い評価を受けています。

今回、このデポジット・ライブラリーの資料収蔵場所を見学できるイベントが開催されることを知り、参加することにしました。

保管場所は廃校になった高校の教室

デポジット・ライブラリーの外観

デポジット・ライブラリーがあるのは、10年以上前に廃校となった横浜市内の神奈川県立野庭高等学校の跡地。「文化遺産課収蔵センター」という看板が掲げられていますが、校舎の3、4階部分の22教室分がデポジット・ライブラリーになっています。

事務室の様子

校舎の3階の一室に、デポジット・ライブラリーの事務室があります。元は教室なので、黒板や学校らしい机や椅子が残る中に、応接セットやパソコン、FAX、ブックトラックや事務用品などが置かれており、ちょっと不思議な雰囲気です。 見学会の最初に、デポジット・ライブラリー立ち上げ時のメンバーの一人である前・神奈川県資料室研究会理事の齋藤久実子氏、前・同副会長の藤村和男氏らから、立ち上げの経緯やエレベーターのない校舎3,4階への資料搬入の際の苦労話、現在のデポジット・ライブラリーの利用状況などのお話を伺いました。

齋藤久実子氏齋藤久実子氏

このデポジット・ライブラリーは、神奈川県立図書館2館(紅葉ケ丘・川崎)のうち、科学・産業分野に特化した川崎図書館と、その川崎図書館に事務局を置く神奈川県資料室研究会(会員の8割が企業資料室)の協同事業として2004年に開設されたもので、神資研の会員機関(主に企業資料室)で保管が困難になった学術系の洋雑誌を神奈川県立川崎図書館に寄贈してもらい、1か所に集めて保存しています。

寄贈する企業の側には資料を廃棄することなく保管スペースを確保できるというメリットがあり、寄贈を受ける川崎図書館側には当該分野の蔵書の充実をはかれるというメリットがあります。そして、保管されている資料は、神資研の会員機関はもちろん、誰でも利用(閲覧、複写)することができます。

スタート当初は500誌ほどだった収蔵資料は、現在1700誌余にまでなっています。ただし、利用者が自分でデポジット・ライブラリーの資料収蔵先に足を運んで資料を閲覧することはできず、川崎図書館を通して依頼し、収蔵先から川崎図書館に資料を取り寄せて複写、または閲覧するという手順になります。

デポジット・ライブラリーの資料は、神奈川県立図書館のWebサイトに掲載された目録(PDF)で確認できるほか、同館の他の蔵書と同様に蔵書検索システム(OPAC)やCiNii Booksでも検索できるようになっているとのこと。

続いて、現地に滞在し資料の出納などを行っているスタッフの方から、実際の利用の流れなどについて説明を受けました。この現地スタッフは、2名が1名ずつ2か月ごとに交代で勤務しているそうです。

説明会の様子

いよいよ書庫へ

色々説明を受けてデポジット・ライブラリーの概要を把握したところで、いよいよ実際の書架を見学に出発です。廃校を利用しているため、設備の一部は使用できない状態のまま残されており、しーんとした廊下には独特の雰囲気が漂っています。

書庫として利用されている教室

デポジット・ライブラリーとして使われている教室の入り口には、書庫の番号が貼られています。

書庫の入口

教室の中に入ると、製本雑誌の詰まった書架がずらっと並んでいます。これが22教室分あるのかと思うと、その量に圧倒されます。

書庫の様子

ここに保存されている製本雑誌は様々な企業から寄贈されたもので構成されているため、同じ製本雑誌でも表紙の色や装丁、背表紙に貼られたラベルなどがバラバラです。デポジット・ライブラリーでの管理番号としては、数字の書かれたシールが背表紙に貼られています。

書庫に並ぶ資料の背表紙

色とりどりなのは書架に並んでいる製本雑誌だけではありません。書架も企業からの寄贈など各所から寄せ集めたものなので、木製の側板のついた高級感のあるものや質素なスチール製のものなど、素材もサイズも様々です。

書庫の様子 書庫の様子

ここに保存されている資料は古いものも多く、中には1900年以前のものもあります。書庫内の空調は扇風機のみで、温湿度の管理が十分に行き届くとは言えない状況のため、カビの発生などに備えこまめな書架の点検が欠かせないそうです。

デポジット・ライブラリーの書架のところどころに、紙が差し込まれているところがあります。これは、この場所にある資料が現在利用中であることを示しています。図書館から依頼が届くと、スタッフが書架から資料をピックアップし、戻す際の目印として依頼書の写しを書架に挟んでおくのだそうです。

利用中の資料を示す紙

そして、ピックアップした資料はコンテナに入れられ、週4回の定期便で川崎図書館に運ばれ、利用者の閲覧や複写に供されます。

ピックアップした資料を入れるコンテナ

見学の途中で、同行していたデポジット・ライブラリー創設時のメンバーの方が、「懐かしいものがありました」と言って指さしたのは教室の黒板。搬入した資料の数量や配置などをメモしたものに交じって「Merry Xmas」という文字とサンタクロースの絵があったのですが、これは2004年の立ち上げ当時、年の瀬を控えたクリスマス頃にこの場所で作業をしていたスタッフの方の落書きだったそう。ふだん一般の利用者が立ち入らないデポジット・ライブラリーならではの光景でした。

教室の黒板

デポジット・ライブラリーのこれから

立ち上げから10年以上が経過し、デポジット・ライブラリーの22教室分の収蔵スペースは現在かなり手狭になってきており、受入誌の選別や配架の工夫などをしながら運営を続けているそうです。一方で、見学会中の質疑では、「電子ジャーナルが普及し、企業資料室では冊子体の雑誌を購入しなくなる傾向にあるので、その分野において重要な雑誌であっても、いずれの企業からも寄贈を受けられなくなる日が到来するのではないか」といった指摘もありました。これらは、現実的かつ至近の課題といえますが、すぐに解決できるようなものでもないでしょう。今回の見学会のような催しが、このデポジット・ライブラリーの存在を広め、その保管や利用の在り方について考えるきっかけになればと思いました。

見学者
関乃里子 (株式会社ブレインテック Jcrossスタッフ)
見学した専門図書館
科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー(神奈川県立川崎図書館)