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専門図書館見学記

和歌山市民図書館 移民資料室

掲載:2016年6月27日
図書館名
和歌山市民図書館 移民資料室
住所
和歌山県和歌山市湊本町3丁目1番地
URL
https://www.lib.city.wakayama.wakayama.jp/imin/imin-top.htm

移民資料室とは

和歌山市民図書館全景

皆さんは、「移民」と聞いて、何を想像するでしょうか?すぐに思いつかないという人も、「アロハシャツはハワイに移住した日本人の着物の生地のシャツがルーツ」といったエピソードは聞いたことがあるかもしれません。今回は、公共図書館に併設された、全国的にも珍しい移民に関する専門図書館をご紹介します。

紀伊半島の西北に位置する和歌山市。城下町の趣を残すこの街の公共図書館、市民図書館の中に、全国的にも珍しい海外移住者(出移民)に関する資料を収集・保存・公開している「移民資料室」があります。

和歌山県では明治時代から海外への移住者が多かったことから、市民図書館の開館から3年後の1984年(昭和59年)12月に、郷土を離れた海外移住者たちの記録を集め後世に伝えることを目的として、この移民資料室が開館しました。

2016年5月に、和歌山で図書館総合展2016 フォーラムin和歌山というイベントが開催された際、このフォーラムの演目の一つ、長年この移民資料室を担当されてきた中谷智樹さんの「移民資料室から世界につながる」と題した講演をお聞きし、あわせて移民資料室を見学させていただきました。

資料室の様子

図書館内に飾られているヘンリー杉本氏の絵画

市民図書館の3階に上がると、移民資料室へ続く廊下に海外移住者たちの生活をリアルに描いたたくさんの絵画が展示されています。これらの絵は、ヘンリー杉本氏という和歌山出身で北米に移住し画家となった人物が、自身の経験を元に描いたもので、太平洋戦争中に北米の収容所に連れて行かれる日本人移民の子どもらの様子や、収容所内での厳しい生活やなにげない日常の一コマを描いたものなど様々なものがありました(これらの絵は、移民資料室のWebサイト上でも見ることができます)。

移民に関する知識がほとんどなかった私も、異国の地に移住した人たちに思いを馳せながら資料室にたどり着きました。

移民資料室の入り口

この移民資料室では、主に日本からの海外移住者(出移民)に関するもので、約9,000点の図書の他、逐次刊行物や移住先の国で発行されていた邦字新聞などが現物またはマイクロ化資料として所蔵されています。館外貸出は行っていませんが、資料室内で閲覧、複写することができます。

分類表

資料は、図書も逐次刊行物も独自の分類で整理・配架されています。訪ねる前は、移民資料ということでなんとなく古い資料ばかりという印象を持っていたのですが、書架には、最近発行された一般の書籍や、研究機関による学術誌なども多く並んでいました。

資料棚の様子

「ブラジル朝日」(ブラジル)、「北米毎日」(アメリカ合衆国)、「大陸日報」(カナダ)といった移住先の国々で発行されていた邦字新聞は、その紙名からも、その新聞を読んで生活していた移民の方々の生活への想像が膨らみます。

各国で発行されていた邦字新聞

国内で移民に関する資料を持っている図書館・資料室としては、JICA横浜の中にある海外移住史料館の図書資料室なども知られていますが、この和歌山市民図書館の移民資料室には、県内だけでなく全国から、自身の親戚などの足跡を求めて訪ねてくる方がいるのだそうです。

これからの時代における「移民資料室」の役割

図書館総合展2016フォーラムの講演の中で、中谷氏は移民資料室の運営について資料を集めることや、MARCなどに頼れないため一から書誌データを手作りすることの苦労などに触れながらも、「日本に滞在する外国人が200万人を越えるこの時代、かつて日本から海外に移住した人々(出移民)の思いや苦労を知ることが、入移民である日本で暮らす外国人の方たちへの理解、国際理解を育むのではないか」と述べられていました。

和歌山市民図書館は、2016年4月に新図書館建設に向けた基本計画が発表されました。これからも、この移民資料室の資料が和歌山市民図書館を特徴づける専門資料として、より多くの人たちに活用されていくことを願っています。

見学者
関乃里子 (株式会社ブレインテック Jcrossスタッフ)
見学した専門図書館
和歌山市民図書館移民資料室