専門図書館見学記
防災専門図書館
- 図書館名
- 防災専門図書館
- 住所
- 東京都千代田区平河町2-4-1 日本都市センター会館内
- URL
- https://www.city-net.or.jp/library/
防災専門図書館とは
防災専門図書館(以下、同館)は、地下鉄の永田町駅から徒歩で数分の場所に立地する、日本都市センター会館の8階にあります。こちらの会館の上層階はシティホテルの客室になっており、宿泊客が同館を訪れることも多いそうです。また、永田町駅と聞いてピンと来る方もいらっしゃると思いますが、国立国会図書館からも近い場所に位置しています。
その館名が端的に示す通り、同館のコンセプトはずばり「災害」と「防災」です。地震大国と言われる日本に住んでいる限り、私たちの日常において災害は意識せざるを得ない事象です。東日本大震災等の大きな自然災害を経験し、防災への意識もより多くの方に共有されるようになり、私が勤務する公共図書館でも災害・防災に関する資料への問い合わせが増えたと実感しています。同館では、1956年の開設当初から今日まで防災等に関する資料(図書は約15万冊)を専門的に収集し、「その活用・発信を通じて、住民のセーフティネットとして貢献する」役割を担うことを理念としています。
専門図書館の分類
先に災害の例として地震を挙げましたが、見学する前に私が漠然と考えていた「災害」は、地震、台風、津波といったいわゆる自然災害が主でした。しかし同館が扱う「災害」の範囲は、人に災いをもたらすもの全般に亘ります。それは同館独自の十進分類法を見ると良く理解できます。2類の風水害・雪害、3類の地震・噴火・津波は自然災害ですが、それ以外の分類では例えば4類の交通災害、7類の公害(放射能汚染を含む)、8類の戦災など、人間が引き起こす災いも含む「災害」を取り扱っています。
見学当時は、私が勤務する図書館でもちょうど防災に関する展示を行っていました。そこで展示資料のメインとなっていたのは、日本十進分類法で言うと369.3の災害、453の地震学あるいは地域資料の中で災害・防災を扱ったもので、人災という観点から集めた資料はほとんどありませんでした。
展示に限らず、レファレンスサービス等の資料の問い合わせにおいても、ある主題に対しいかに広い視野から資料にアプローチできるかで回答の質が変わってくると思いますが、専門図書館における主題分類の一例を知り、災害や防災に関する新たな角度を発見することができました。専門図書館の主題分類を知るということは、公共図書館におけるサービスを深める上で非常に参考になることが今回の見学で実感できました。
書庫内の見学
では、その分類の下に具体的にはどのような資料を収集されているのでしょうか。同館は、8階に開架スペースの閲覧室があり、こちらでは雑誌の閲覧と展示の見学がどなたでも可能です。8階・9階・地下には閉架書庫があり、図書は蔵書検索等で確認した上でカウンターへ申し込み閲覧します(館外貸出は市等関係者に限られます)。今回の見学では、同館の大部分の資料を収蔵する書庫を案内していただきながら、コレクションの特徴などをご紹介いただきました。
8階の書庫には0類の災害一般から4類の交通災害まで、9階の書庫には5類の農業災害から8類の戦災までが収められています。1類の火災で例を挙げると、『火の昔』(柳田國男著)や『火の精神分析』(ガストン・バシュラール著)など火に関する理論・文化史から始まり、『消防計画の作成』(東京消防庁監修)、『東京海上火災保険株式会社百年史』(東京海上火災保険著)など、火とは何か、それはどんな災いをもたらすのか、それに対して人間はどう備え対策してきたのかが分かる資料群が体系的に整理されていました。
公共図書館との関係で特に印象的だったのが、全国の地方自治体の市史や県史を集めた災害史のコレクションです。公共図書館でも、地域資料として自治体の市史を所蔵していることが多いと思いますが、同館では、各地域における災害史を調べるのに有用な資料として、全国の市史等を収集しているそうです。市史の他にも、防災計画など自治体が刊行する行政資料を積極的に収集されていますが、最近ではWeb上にデータで公開されることが多くなり、紙の資料として収集しにくくなっているという事情も伺いました。地域の情報拠点である公共図書館としても、こうした資料を確実に収集保存し、提供していくことの重要性を再認識しました。
特別コレクション
同館が有する特別コレクションとして、「火災・地震関係かわら版」があります。かわら版は江戸時代のいわば新聞のようなもので、時事的な事象を伝えるメディアですが、同館ではその中でも火災や地震等の災害に関するかわら版をコレクションしています。見学では書庫内に保管されたかわら版を何点か見せていただきました。災害の範囲はもちろんですが、その地域の地理的特徴や時代の風俗など、災害の歴史を視覚的に知ることができる貴重なものであり、現在の防災を考える上でも重要な資料だと感じました。このコレクションは同館ホームページのデジタルアーカイブより、高精細な画像を豊かな色彩とともに見ることができます。
天保5年(1834)に、富士山で起きた雪代災害の様子を描いたかわら版
企画展「阪神・淡路大震災から20年」
最後に、企画展「阪神・淡路大震災から20年」について詳しく解説していただきました。被害の状況や東日本大震災との比較など、様々な切り口や資料を元に震災を振り返るとともに、今後都市で想定される災害に備える内容の展示でした。
展示で特に印象的だったのが、震災を象徴するキーワードの意味が、この20年間でどのように変遷したのかを分析するコーナーです。例えば「ボランティア元年」と呼ばれた1995年から東日本大震災までの約20年間での、ボランティアという言葉が持つ意味の変化や、過去の経験からの蓄積が関連図書とともに紹介されていました。20年間という長いスパンの変化や蓄積を知ることができる資料の厚みが、専門図書館ならではのものだと感じました。
おわりに
専門図書館の存在はもちろん知っていましたが、不勉強ながら実際に利用したことはありませんでした。今回実際に見学させていただいたことで、単なる紹介・照会先にとどまらず、公共図書館のサービスを深める上で参考にできる点が多々あることに気づくことができました。また、近年ではビジネス支援や農業支援など、地域が抱える専門的な課題への支援に取り組む公共図書館も増えています。専門図書館が蓄積してきた資料や知見は、公共図書館がこうしたサービスを展開していく上でも参考になると思います。今後も個人的に専門図書館について勉強していくとともに、館種を超えた相互の連携を図ることができればと考えました。
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- 見学者(ハンドルネーム)
- 公共図書館の司書W
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