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専門図書館見学記

ジェトロ・ビジネスライブラリー <東京>

掲載:2015年10月15日
図書館名
ジェトロ・ビジネスライブラリー<東京>
住所
東京都港区赤坂1丁目12番32号アーク森ビル6階
URL
http://www.jetro.go.jp/library/
※ ジェトロ・ビジネスライブラリー東京は2018年2月28日に閉館しました。

きっかけはSNSから...

図書館で働こうと思ったのは、いつ頃から何故だったのか、皆さんは覚えていますか。そして今、どのような気持ちを持って図書館で働いているでしょうか。

私自身は、大学進学時に図書館情報学を選択して司書資格を取得しました。平成の時代とほぼ呼応しながら、いわゆる公共図書館に勤務し始めてから、そのまま早や4半世紀が過ぎようとしています。

その間、改めて考えるまでもなく、社会はすさまじく変化してきました。翻って図書館という場所や機能は、時代にどう対応して変容してきたでしょうか。個人的には、俯瞰する視野も余裕も持たないまま、ただただ目の前の利用者と必死に向き合ってきただけ、だったように思います。

前置きが長くなりましたが、プライベートで子育て等がややひと段落した2010年頃から様々な研修に参加させていただいてきた中で、情報環境の著しい変化と、新たな情報機器の活用が必須であることをまざまざと痛感し、同時に、SNS等により人とのつながりが、これまでよりはるかに迅速かつ新たに広がっていくことを現在進行形で体感しています。

今回の専門図書館ツアーも、普段は全く違う場所で働いている方がFacebookで「専門図書館見学」イベントを公開されていたのを偶然目にしたのをきっかけに、気後れや遠慮も「なにそれ」状態で参加させていただきました。WEB上でしか知らなかった場所や人々と、気軽にリアルでもつながりを作れる、まさに情報社会ならではの体験が今やすっかりやみつき!?になっています。

ジェトロって、どういうところ?

今回は、3つの専門図書館を見学させていただきました。いずれも、機関の名称などは存じ上げてはいたものの、普段の業務において関わることはほぼ皆無であり、設置母体や設置目的などを意識することもまずありませんでした。そのため、単に施設の見学にとどまらず、改めて各機関について認識し理解を深める機会となりました。

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以下に、今回見学したジェトロ(JETRO:日本貿易振興機構Japan External Trade Organization、経済産業省が所管する独立行政法人)のビジネスライブラリーについて簡単ながらご紹介します。

場所は、言わずと知れた都会のど真ん中、東京都港区赤坂です。時間の都合でタクシー移動したため、再度の訪問時には立ち往生するだろうと思われるほど、お洒落なオフィスビルが立ち並ぶ街の中、ライブラリーは、いわゆるアークヒルズの中心「アーク森ビル」の6階にありました。

しかしながら歴史は古く、前身の日本貿易振興会(JETRO: Japan Export Trade Promotion Agency)の組織として1964年に開館し、2005年に本部が大阪から東京に移転した際にリニューアルオープンしたそうです。また、貿易や投資を専門とした、諸外国の経済・貿易に関する資料を収集しているライブラリーは、東京と大阪、幕張(千葉)のアジア経済研究所の3か所に置かれています。

情報提供機関としてのライブラリーサービス

館内に入ってまず驚いたのは、館内の活気に満ちた雰囲気です。企業のオフィスかと思うほど、大勢のスーツ姿の方がデスクで分厚い資料をめくっていたり、資料を抱えて書架の合間を行き来したり、データベース端末に向かっていたり、静かなフロアなのですが、活動的で賑やかなエネルギーが溢れているのを感じました。

月曜の午後に訪問しましたが、1日平均214人(2013年度)の入館者があるとのこと、仕事やビジネスに情報は必要不可欠ということを、当たり前の事実ながら思い知った次第です。

また、蔵書は約23万冊、国際ビジネスの専門図書館ということで、世界各国や地域を対象に資料が収集されています。特徴的なのは、一般統計のほか、貿易統計、産業別統計など統計資料が充実していることはもちろん、世界各国の概況や市場状況、貿易関係の情報、世界各国の業種別企業録や電話帳、海外進出企業一覧、関税率表などが揃えられていることです。中には、各国の現地でしか入手できないような貴重な資料もあり、ジェトロの海外事務所から得た情報により収集したり、貿易投資関連機関から寄贈していただいたりすることも多いそうです。

さらに、各種データベースが、さすが豊富に取り揃えられていて驚きました。日本企業50万社がリサーチ可能な「TSR企業情報」、海外進出企業や外資系企業のCD-ROM版、海外企業約460万社以上が収録された「KOMPASS」、世界の未上場企業も検索可能な「Mergent Online」、世界175カ国の貿易統計「Global Trade Atlas」、約400の契約書式が日本語と英語で収録された「DRAFTSMAN」など、日本企業の海外展開のための情報収集をサポートするコンテンツが用意されています。

これらの情報や設備が、だれでも無料で利用できる(資料のコピーやデータベースのプリントアウトは有料)ということも、また驚きです。

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見学雑感

個人的に気になったのは、館内にあった「ジャパンコーナー」です。日本に関する外国語の資料を集めたコーナーで、なかなか積極的な資料収集が難しいとのことでしたが、ライブラリー利用者は、海外進出などを考える国内企業の方が多い一方で、各地方自治体が観光や産業などを海外へアピールできる場としても、どんなことにもビジネスチャンスにつながるかもしれないという点では活用可能なのではないか、と思えました。

また、このような専門的な情報提供機関のサービスを有効活用しようとする視点を、既存の利用者はどのように持ちえたのか、という点も気になりました。

ライブラリーを見学した後、中学時代の同級生に(それこそ、SNSがなかったら一生会うこともなかったかもしれなかったのですが)卒業後に初めて会う機会がありました。その中で、製鉄関連の企業に勤めている人から「先日ジェトロに行ったよ」とリアルな利用体験を偶然にも伺いました。会社で製造している鉄の輸出入の統計資料、アメリカの輸入状況や、各国のアメリカへの輸出状況、量や単価、海外の製鉄所の設備能力など、仕事に必要な関連情報を入手するのに、それこそ当然のようにライブラリーを利用しているようでした。

仕事上のノウハウとしての常識なのかもしれませんが、輸出など海外進出を検討している企業や個人がジェトロのような専門情報提供機関を活用することは、組織内において口頭で継承されているものなのか、それとも、個人の情報リテラシー能力の啓発努力なのか、利用者調査をやってみたいと感じました。

今回の専門図書館のサービスに限りませんが、<知っている><知らない>という情報格差が、そのまま経済格差に直結しかねないケースは、今後ますます多くかつ深刻になってくると思われます。

利用者調査などの結果を見るまでもなく、例えば大学図書館などでは、将来のビジネスを担う学生に、専門情報の活用事例をアピールしたり、公共図書館などでは、市内の中小企業経営や起業支援サービスとして、まずは専門図書館の存在を知らしめるためのオリエンテーション的な講座など、ご協力いただきながらも組織的に取り組まれるような仕組みを考えていくべきではと感じた次第です。

最後になりましたが、見学した際には、開館中にも関わらず、ビジネスライブラリーの青山課長と鳴海さま、スタッフの皆様には、丁寧な解説と、館内見学や質疑にも対応くださり、本当にお忙しい中、大変有り難うございました。感謝申し上げます。

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見学者
小廣 早苗(千葉県佐倉市立志津図書館勤務)
見学した専門図書館
ジェトロ・ビジネスライブラリー<東京>
※アイコンは佐倉市ゆるキャラ「カムロちゃん」との写真です