レポート
北浦和図書館オンラインイベント
『知的で素敵なボードゲーム』レポート
2021年1月下旬、二度目の緊急事態宣言に関するニュースが取りざたされるなか、あるトピックが目にとまりました。
『知的で素敵なボードゲーム』 Zoom使用のオンライン開催 - 北浦和図書館[※1]
単独の図書館で行うオンラインのイベント、しかも参加者と交流する目的のボードゲームが題材というのはとてもユニークです。
ぜひとも内容を知りたいと願い、2月上旬に北浦和図書館のご担当者、印南様、長谷川様にオンライン取材という形でお話をうかがいました。
オンラインは初めての試み
今までこのようなオンラインイベントを開催されたことがあるのでしょうか?
印南さん(以下、敬称略)いえ、北浦和図書館としてはオンラインは初めての試みでした。
さいたま市の図書館としては昨年の10月25日、大宮図書館で「いろんなことばdeおはなし会[※2]」という小学生を対象にしたオンラインイベントを開催したのですが、おはなし会とボードゲーム講座では内容が異なるため、そのまま参考にはできませんでした。
手さぐりだったのですね。
印南はい。また、私たちのオンラインの知識も「Zoomを使ったことがある」というだけで、主催する、いわゆるホストになる経験がなかったのでその点でも不安がありました。
私たちJcrossのスタッフもオンラインイベントを始めたころは同じ状態だったので、お気持ちよく分かります。
世代を超えた交流ができたのではないかと思います
定員制のイベントですが、参加状況はどうだったのでしょう?
印南6人募集して、残念ながら5人しか集まりませんでした。Zoomでの参加が必須だったことや、参加方法がオンラインの申し込みだけで、今回は電話・窓口が不可だったことが、少し高いハードルだったのかもしれません。
差し支えなければ年齢層を教えてください
印南年齢層は30代が3人、20代が1人、50代が1人でした。
20-30代は図書館の利用者として薄い層になるのですが、以前はその層を対象にしたイベントがなかったので、この講座をきっかけに図書館に呼びたい、増やしたいという希望はありました。確かに図書館は子どもやその親が対象のイベントが多い印象です。参加者を見ると狙いが当たったと言えますね。
長谷川さん(以下、敬称略)ちなみに昨年は対面でのボードゲームイベントを行ったのですが、その時は30人募集して29人に参加していただき、そのうち9人が20代でした。なかには70代の方もいらっしゃったので、世代を超えた交流ができたのではないかと思います。
昨年と異なり、オンラインという実際に対面できない状況でしたが、どのようにボードゲームを行ったのでしょうか?
印南私たちはボードゲームついてそれほど詳しくないので、昨年も講師を担当した当館の職員――今は異動したので元図書館職員ですが、その講師と相談して準備しました。
盤上でコマを進めることはオンラインで難しいため、カードだけで遊べる情報が伝えやすいものを中心に12種類のゲームを選定しました。[※3]
当日はそのうち3種類で遊ぶことができましたが、最初に『ワードスナイパー[※4]』という簡単なゲームを手慣らしとして、次に協力するゲームの『ito(いと)[※5]』、最後に皆で謎を解く『ブラックストーリーズ[※6]』を行いました。
その3種類はどのように選んだのでしょうか?
印南最初の『ワードスナイパー』は講師が選びましたが、それ以降は画面にゲームを並べて参加者の方たちと相談して決めました。みなさん、どのようなゲームか積極的に聞いてきましたし、ゲームに詳しい方は説明もしてくれました。
上手くコミュニケーションが取れていたのですね。
印南少人数だったこともあると思いますし、本名ではないニックネームをOKにして、Zoom画面で顔を出すか出さないかも任意にしました。その点でも発言しやすかったのかもしれません。
ボードゲームのルール説明や進行はどのように行ったのでしょうか。
印南口頭です。講師が慣れているのでお任せしました。
Zoomのチャットや画面共有は使わなかったのですか?
印南はい、チャットは便利だったのですが、こちらがタブレット端末だったので使いづらかったのです。ただ、Zoomに慣れている参加者の方が、自主的にゲーム内での議論をチャットでまとめてくれるなど手助けしてくれました。
イベントで使用した機材
不安だったのでリハーサルは頑張りました
今まで対面で行っていたイベントをオンラインにしたという経緯に興味があるのですが、オンラインにすると決めたのは、いつ頃でしょうか?
印南ボードゲーム講座を行うことは早い段階に決まっていたのですが、オンラインにすると決定したのは昨年の7月末でした。冬になると新型コロナウイルス感染症が再び拡大する恐れがあったのが理由です。
冬にはさいたま市を含む地域に緊急事態宣言が発令される事態になりましたし、賢明な判断でしたね。
印南はい。ボードゲームの選び方から、何から何までがらっと変わってしまうので、最初からオンラインに踏み切ったのは正解でした。早くから準備していなければ、開催することは難しかったと思います。
オンラインの準備で大変だったことはありますか?
長谷川カードのイラストを見比べて当てるゲームがあるのですが、リハーサルでは光の反射で上手く映らず、高さを変えたりテーブルの位置を細かく調整したり、苦労しました。
モニタの大きさによって画面のレイアウトも異なるので、利用者にはどう見えているんだろう、とか考えますよね。
印南かなり綿密にリハーサルをやったのですが、当日はぜんぜん状況が違っていて、結局はその場その場で最適な方法を考えるのが正解だったのかもしれません。でもやはり不安だったのでリハーサルは頑張りました。
Zoomについてはどうでしょうか?
印南ホストは初めてだったのでZoomの機能に踊らされることが多く、設定が終わってURLを参加者に通知できたときは、ほっと安心しました。前日が一番バタバタしました。
イベントの様子
オンライン以外の面で大変だったことはありますか?
印南事前にボードゲームの著作権について確認を取るのですが、担当者がテレワークになった影響か、今までは電話で済んでいたところがメールでの受付になることが多く、限られた時間の中で返信を待っているのが不安でした。
連絡先は販売元や出版者なのでしょうか?
印南はい、ただボードゲームは規模が小さい場合が多く、個人が販売しているケースもあるのです。[※7]
長谷川その場合、手続きが難しいことが多く、残念ながら選定から外れることもありました。
ボードゲームの販売、というと規模が大きいおもちゃメーカーを想像していたので意外でした。今後、図書館のイベントで利用する際のガイドラインができると良いですね。
安全に参加できる利点
オンライン開催で良かった点があればお聞かせください。
印南まず、昨今のような感染症が心配な時期でも、家から安全に参加できる利点が挙げられます。また、当日は雨もしくは雪という寒い日だったのですが、そんな天気にも左右されません。更には埼玉県外など距離が遠い地域の方に参加してもらったことも良かった点でした。
確かに悪天候で住居が遠い場合は、会場にたどりつくのも大変です。
長谷川実は昨年の対面でのイベントで参加者が1名欠席になってしまったのは雪が原因だったのです。
印南他の利点としては、前にも言いましたが、画面に顔を出さなくても参加できる安心感があるので、それが活発な会話につながっていたと考えます。
実は本との親和性が高いのです
チラシの内容を見ると「ボードゲームに関するブックトーク」というものがありますが、どのような講座でしょうか?
長谷川ボードゲームに関連した本を紹介するコーナーです。ボードゲームには物語や歴史、文化をテーマにしたものが多く、実は本との親和性が高いのです。
ボードゲームを好きになった方が背景を深く知るために図書館の本を調べるなど、利用につなげられればという狙いがあります。
具体的にどのような本を紹介したか教えてください。
長谷川今回は『都会のトム&ソーヤ ゲーム・ブック[※8]』という、途中で選択肢があり「Aの行動をするなら〇〇ページへ、Bの行動をするなら××ページへ」と言う形でストーリーが枝分かれする小説をとりあげました。
それに関連して『ドラゴンをさがしに[※9]』という物語が枝分かれする絵本型式のボードゲームも紹介しています。
ゲームのような小説、絵本のようなボードゲームという対比なのですね。
長谷川他にも今回遊んだ『ブラックストーリーズ』は水平思考という種類の謎解きなのですが、同じ水平思考の書籍である『ウミガメのスープ[※10]』シリーズもとりあげました。
また、『カタカナーシ[※11]』というカタカナ語をカタカナ語を使わずに説明するゲームがあるのですが、それに関連して「伝え方」や「説明の仕方」の書籍を紹介しています。
それらの本は図書館に所蔵されているのですか?
長谷川はい。これらの本を紹介したブックトークの資料をPDFで配布し、タイトルをクリックすると図書館のホームページに移動し、利用してもらえるようにしています。
本とボードゲームはあまり接点がないと思いこんでいたのですが、そのような連係ができるとは面白いですね!
プライベートで遊ぶようになりました
ボードゲーム講座をはじめられたきっかけは何だったのでしょうか?
長谷川元図書館員の講師がボードゲーム好きだったことがきっかけで、2年前に公⺠館と共同で⾏い、去年から図書館単独で開催するようになりました。
図書館のイベントとして引き継がれたということは好評だったのですね。
印南はい、アンケートでも「ぜひ、また参加したい」と言う声があり、好評でした。
昨年の対面イベントの参加者が29人というのは盛況です。全員が同じゲームをするのでしょうか?
長谷川テーブルを6卓に分け、経験別に参加者を分けて行いました。ゲームも初心者向けから難しいものまで難易度順に並べて選択できるようにしています。
講師以外のスタッフはボードゲームって何?という状態からスタートしたので、ルールを見ずに説明できるまで勉強しました。今では、たまにプライベートで遊ぶようになりました。
少しだけ「はまる」ようになったのですね(笑) ボードゲームは図書館で所蔵されてるのでしょうか?
印南いえ、講師に借りたものです。図書館でボードゲームを管理したい気持ちはとてもあるのですが、やはりゲームを購入するとなると難しい面もあり、現状ではゲームブックなど本の形態になっているものだけを所蔵しています。
やらないと分からないことがある
既存のイベントをオンライン化したと聞いて、フットワーク軽く行われていた印象でしたが、裏では努力の末に開催していることが伺え、とても興味深かったです。
印南軽やかではなかったですね(笑)。イベントが終わって帰宅した夜なのですが、実は胃が痛くなり、ぐったりしてしまったのです。当日はなごやかにイベントが終わり、大きな負担も感じなかったので何が起きてるか分からず困惑しました。
緊張から開放されて一気に気疲れが出たのですかね……。
印南そんな出来事もあったのですが、それでも「やらないと分からないことがある」ということがイベントを開催して実感できたので、今後のオンラインイベントに生かしたり、伝えたりしたいです。
そのような共有できるノウハウは貴重ですよね。それゆえに最初に一歩踏みだすことは価値があるのですが、改めてその大切さを教えてもらった気がします。
印南来年は世間がどうなっているか分かりませんし、講師の方が異動したことなど課題は多いですが、それでもボードゲームのイベントを続けていきたい気持ちはあります。
今後もオンラインの企画はあるのでしょうか?
印南残念ながら今のところ予定はないのですが、一度経験したことを生かし、もっと参加人数を増やすなど改善できたら良いと思います。
この経験が次につながることを期待しています。県外でも参加できることが分かったので、次回があったら私たちも参加してみたいです。
印南・長谷川ぜひ!ボードゲーム未経験の方も多いので、詳しくなくてもぜんぜん大丈夫です。
本日は忙しい中インタビューを受けていただき、誠にありがとうございました。
困難を乗り越えてイベントを開催された印南様、長谷川様。 今後のご活躍をJcrossでも応援するとともに、次のイベント企画を楽しみにしています。
- 図書館名
- さいたま市立北浦和図書館
- 住所
- 〒330-0074 埼玉県さいたま市浦和区北浦和1丁目4−2
- URL
- https://www.lib.city.saitama.jp/contents?6&pid=49
文/村上 智 (株式会社ブレインテック)
- [※1]
- 北浦和図書館ではボードゲーム講座「知的で素敵なボードゲーム」をオンラインで開催します(終了しました)
- https://www.city.saitama.jp/004/001/002/005/urawa/p076989.html
- [※2]
- 大宮図書館 いろんなことばdeおはなし会 10月25日(終了しました)
- https://www.omiya-library.jp/news/event/2020/000154.html
- [※3]
- ボードゲームの定義
- 狭い意味では専用のボードを使うゲームを指すが、広い意味ではボードがなく、カードやコマだけのゲームも含めることがある。
- [※4]
- ワードスナイパー(リゴレ)
- 「わ」で始まる「冷たいもの」のように「文字」と「お題」に合う言葉を早く答えた人が勝ちというゲーム。
- [※5]
- ito(アークライト)
- 自分に配られた数字カードの大小を、数字ではなくテーマに沿った言葉で相手に伝え、順番を当てるゲーム(例:「大きな動物」がテーマなら、「5」はハムスター、「95」はクジラぐらい……と考えて伝える)。
- [※6]
- ブラックストーリーズ(コザイク)
- 奇妙で不可解な事件が起き、それが起きた背景を皆で解き明かすゲーム。出題者に対して「はい」「いいえ」で答えられる質問をしながら推理し、謎を解いていく。
- [※7]
- ボードゲームの個人出版
- ボードゲームは同人文化が活発なため、企業以外でも個人が販売しているケースがある。「犯人は踊る」や「カタカナーシ」のような有名なゲームも、元は同人で作られていた。
- [※8]
- 都会のトム&ソーヤ ゲーム・ブック(YA! ENTERTAINMENT)
- 人気小説「都会(まち)のトム&ソーヤ」シリーズのスピンオフ企画。本の中に現れる選択肢を自分の判断で選ぶことで、物語の展開が変わる。
- [※9]
- ドラゴンをさがしに(Game Flow)
- 剣と魔法の世界を舞台に、アイテムを手に入れたり、戦ったりと自分で行動を選択することで結末が様々に変化するゲーム絵本。「すごろくや」が国内版を制作。
- [※10]
- ポール・スローンのウミガメのスープ(エクスナレッジ)
- 水平推理ゲームの第一人者ポール・スローンの著作。「ウミガメのスープを飲んだ人が自殺した、なぜか?」などの謎があり、出題者に対して「はい」「いいえ」で答えられる質問をしながら推理する。
- [※11]
- カタカナーシ(幻冬舎)
- カタカナ語のお題を、カタカナ語を使わずに説明し、相手に当ててもらうゲーム(例:「ハンバーガー」を「パン」「レタス」を使わずに「欧米の主食で肉や野菜をはさんだもの」と説明するなど)。