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レポート

読書について考える

掲載:2018年1月16日

最近、本が売れないという話や、若者の活字離れを憂うといった話をよく耳にします。

しかし、ちょっとしたきっかけがあって読書の楽しさを知りさえすれば、読書をする人はもっと増えていくのではないかと以前より思っていました。

どうしたら「読書体験」を得ることができるようになるのか、第19回図書館総合展で、そうした話題に通じる2つのフォーラムに参加しましたので、あらためて「読書」、「読書体験」について自分なりに考えてみました。

読書体験を伝えるための「パターンランゲージ」

ひとつめのフォーラムは、慶応義塾大学×有隣堂による「『Life with Reading』~読書のコツや楽しみ方を伝える27個のことば」です。

フォーラム名
第19回図書館総合展 慶應義塾大学×有隣堂 「『Life with Reading』~読書のコツや楽しみ方を伝える27個のことば」
2017年11月9日 13:00-14:30 展示会場内
対談
井庭崇(慶応義塾大学総合政策学部准教授)
渡辺泰(株式会社有隣堂経営企画本部社長室室長)
Webサイト
図書館総合展の公式ページ/https://www.libraryfair.jp/forum/2017/5958

まず、有隣堂の渡辺室長からは、出版界や書店経営などの厳しい状況について説明がありました。この状況は「読書習慣が減った」ということがひとつの要因として考えられ、これまでも、おすすめ本を紹介したり、読み聞かせやビブリオバトルなどを開催しているという現状の説明がありました。

そうした状況をふまえ、「Life with Reading」と題された今回の発表内容は、読書について語り合えるような共通言語を作成するという慶応義塾大学の井庭准教授と有隣堂の共同研究の成果で、「読書についてのパターンランゲージ」を定義しようというものです。

井庭准教授によると、例えば「本」については多くのコミュニティがあり、本が好きな人同士が語り合える場も多くある一方で、「読む人」と「読まない人」が交わる場は少なく、これは「読む人」が「読まない人」に「読書の楽しさ」を伝えるためのボキャブラリーが少ないことが影響しているのではないか、とのことでした。

そのため、この「読む人」と「読まない人」とのコミュニケーションが図れるような言葉や、読書そのものを語り合えるような言葉など、読書について話すときに使用できる共通言語(パターンランゲージ)を作成しようというのが今回のお話でした。

「Life with Reading」では、読書に関するパターンランゲージを以下の3つにカテゴリにわけます。

「読書のコツ」
読書が苦手な人について、なぜ苦手なのかといった理由を抽出した後、それをものともせずに読書を楽しんでいる人の行っているコツを共有するためのパターンランゲージ
「読書の楽しみ方」
本を読んで内容を理解すること以外にもある、読書の楽しみを共有するためのパターンランゲージ
「創造的読書」
これからの時代で求められる「創造的読書」の考え方を示すパターンランゲージ

パターンランゲージとして言葉を定義することで、イメージがわきやすくなります。

自分の行動を言語化することで、無意識に行っていたことを自分で認識することができるようになり、それが実は「読書のコツ」であったり、読書を続けるモチベーションを保つ役割になっていたりすることに気づかされたりします。

「読書する人」が、読書のコツや楽しさを「読書しない人」に伝えたり、読書の楽しみそのものを周りの人と分かち合ったりするときに使用できる言葉が定義されていたので、読書から離れている人にも読書の楽しさを会話の中で自然に伝えることができます。

今回のフォーラムでも、実際にこれらのパターンランゲージを使って周りの人と会話をするという時間も取られており、見知らぬ人と読書について語り合うことになったのですが、互いにコミュニケーションがとりやすく「その気持ちわかります」「そうですよね」などと会話が弾み、(本に対して、ではなく)読書についての話でこんなに盛り上がることができることを知り、語る楽しみを覚えると同時に言葉による定義の力を実感しました。

ビブリオバトル

「読書体験」を共有するということでは、すでに多くの人に認知されている「ビブリオバトル」がありますが、もうひとつ紹介するフォーラムは、このビブリオバトルについてのシンポジウムです。

フォーラム名
第19回図書館総合展 ビブリオバトル・シンポジウム2017
2017年11月7日 15:30-17:00 第3会場
基調講演
岡野裕行(皇學館大學文学部国文学科准教授)
パネリスト
  • 三浦一郎(姫路市立手塚小学校教諭)
  • 木下通子(埼玉県立春日部女子高校主任司書)
  • 坪内一(横浜市緑区役所学校連携・こども担当課長)
  • 奥野康作(株式会社ブックエース代表取締役社長)
進行
瀬部貴行(株式会社紀伊國屋書店)
Webサイト
https://bibliobattlesympo.wixsite.com/sympo2017
図書館総合展の公式ページ/https://www.libraryfair.jp/forum/2017/5878

ビブリオバトルは、「バトラー」と呼ばれる人が数人、それぞれお勧めの本を持ち寄り、時間制限のある中でその本を紹介します。参加者はそれぞれのバトラーの話を聞いたあと、ディスカッションの時間の後に、どの本を一番読みたいと思ったかを投票して「チャンプ本」を決めるというものです。

ビブリオバトルについては、本の内容を理解するだけではなく、自分が感じた面白さを人に伝えるものということで、バトラーにとっては、自分の読書体験を言葉にするという行為が、本から得た知識を自分に肉付けしていくことになります。

バトラーとなる人は、本を読んでその内容を人に伝えるという行為を通じて、本の内容を整理し身に着けることができるということの他、バトルに参加して話を聞いた人たちにも、その人が本に対して興味をもち、読むきっかけとなるということが、このビブリオバトルというイベントの効果です。

さて、今回のシンポジウムで印象的だったのは、「ビブリオバトルはゲームであり、本を読むきっかけに過ぎない」というパネリストからの意見でした。

最近はビブリオバトルを学校で導入する事例も多いようですが、本について興味を持った子どもたちが、その後の人生で読書を楽しんでいくために、ビブリオバトルのように読書のきっかけになるイベントが行われるのであれば、子どもたちの周りに読書について適切に補助できる図書館と司書の方々が存在することがとても大事なことだと思います。

なるほどと思ったのは、開催期間の間をあまり長く空けないことが重要だという話で、次回開催までの間が空いてしまうと、参加者の気持ちが一旦リセットされてしまうので、できれば月に一度など定期的開催し、都度、次回の開催についても参加者に案内する方が良いとのことでした。

他にも「中心となるメンバーが学生の場合、そのメンバーが卒業することで続かなくなるということもあるので、学生や教員、職員が主体的にそれぞれの立場から関わることが長続きする秘訣」というお話や、「年配の方からは「バトル」などの言葉に違和感をおぼえることもある」という話題もありました。どちらも実際に開催する立場での意見でしたが、ビブリオバトルのようなイベントを多くの人に体験してもらうためにも留意していかなければならない話だと感じました。

以前、私自身も観客としてビブリオバトルに参加したことがあるのですが、バトラーの人たちのその本に対する思い入れや、それを一生懸命に伝えようとする姿にふれて「どの本も読んでみたい!」と思ったことを思い出しました。

ビブリオバトルとともに、図書館の司書や先生たちの支援があることで、興味のある分野や本を見つけ、本について良い印象を持つことができれば、その後の生涯でも本を手にする心理的なハードルは下がります。

本に対してのコミュニティは多いので、一度読書を好きになることができたら、一時的に離れてもまた読書の世界に戻ってくることを期待できるのかなと思います。

最後に

参加した2つのフォーラムのどちらにおいても、人対人のコミュニケーションを中心に「読書」を考えていました。

「本」そのものだけではなく「読書」について他人と語り合ったり共有したりすることが容易になれば、「読書体験」の輪を広げていくことができますし、それが「読書習慣」につながっていきます。

「読書体験」を伝えるためのツールである「パターンランゲージ」、そして「読書体験」を言葉を介して他人と共有する「ビブリオバトル」。

本や読書の楽しみを伝えることが、読書のきっかけとなったり読書を続けるモチベーションになったりすることをあらためて考えさせられました。

文/赤枝 幸子 (株式会社ブレインテック Jcross担当)