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レポート

IFLAポーランド大会レポート

掲載:2017年10月10日

IFLA(国際図書館連盟、イフラ)は1927年に創設され、本部をハーグに置く世界最大の図書館の組織です。今回が83回目となったポーランドのヴロツワフ大会。会場となった世界遺産に登録されているセンテニアホール(百年記念会館)は、ナポレオン戦争におけるライプツィヒの戦いの勝利から100周年を記念して、1911~13年に建てられたもので、建物横には夜にライトアップされ噴水ショーが行われる公園がありました。(写真1,2)

(写真1) 会場

(写真2) 噴水ショー

レポートをする私は、今回が2回目の大会参加。前回は3年前のフランスのリヨン大会でしたが、ひんやりした夏のヨーロッパは暑がりの私には最適です。いずれも友人たちがポスターセッションに参加するので、その応援がてら出かけました。みなさんにIFLAの雰囲気をお伝えしたいと思います。

今回の参加者は公式発表で3100人(122か国から)、うち日本人は40人ほど。とりあえず共通言語は英語ですが、大きな会場のセッション参加の場合は、入り口でヘッドホンを借りると通訳ブースに、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語、アラビア語、中国語の通訳がいて同時通訳をしています。ヘッドホンを借りずに会場に入り、「ぼくはフランス語しか話せませんが、スライドは英語で作りました」というセネガルの青年の発表は、フランス語の美しさを堪能しましたが、理解不能でした(笑)。英語が堪能な発表者ばかりではなく、様々なお国訛りの英語を聞くのも楽しいものです。手話通訳も待機していて、きちんとサービスを行っていました。

参加費

JLA会員なら会員価格で3か月前に申し込むと490ユーロ(63.700円)、それを過ぎ大会前日までが585ユーロ(70.650円)とかなりお高い値段です。学生割引や1dayチケットなどもあります。ただ、IFLAのネームタグをつけていると市内の公共交通機関は無料。博物館や美術館も無料だったり、お土産物が割引になったりインターナショナルパーティ、会場内でのコーヒーチケット、大会ロゴ入りバッグ、最終日の図書館見学ツアー(貸し切りバスを使うことが多い)等の特典があります。オープニングからエンディングまで会期は6日間あり、さまざまなサービスを使いこなせばかなり元が取れるかと思われます。(写真3)

(写真3) バッグ入りのIFLAグッズ

発表をするには

前もって参加申請を出しOKが出たら発表準備。ポスターセッションに参加した友人たちを見ていると、英語のポスター作りと印刷が第一関門。ポスターは布製がお薦めでスーツケースに折り曲げて入れられ便利。紙ポスターは、筒に入れて持ち運ぶので結構気を遣います。ポスターセッションは、前日にポスターを貼る、2日間説明をする(2時間その場に待機)、4日目に撤去するという4日間。前後の貼り出しと撤去は数分で終わりますから、他の分科会に参加したり、市内観光をすることは可能です。

ポスターセッション中は、次々に説明を求められますので、発表者は事前に練習をしているようで英作文が第二関門です。しかし、予期せぬ質問も多く、身振り手振りと単語並べで答える各国の発表者の姿も多く見かけました。ポスターセッションは、コミュニケーションが大事ですから、カタコト英語でも楽しく会話しながら様々な国の取組を見ていくことがお薦めです。発表者がいない時間帯にじっくりポスターを見て、このポスターの説明を聞きたいというのを決め、ピンポイントで回るのがいいでしょう。なんせ200近くありますから。(写真4,5)

(写真4) ポスターセッションの様子

(写真5) ポスターセッションの様子

私が注目したのはセルビアの図書館に有名人(俳優、作家、スポーツ選手)を呼んで、司書の仕事を一緒にやってもらったり、様々なパフォーマンスをしてもらうという楽しい企画。そばを通っていたら発表者に呼び止められ「あなたの髪の色私と似てるわ!」と言われ一気に親近感が沸きました。「有名人にどうやってコンタクトを取るか」尋ねると、「小さい国なのでいきなり電話してもすぐOKをくれて、ノーギャラでみんな来てくれるのよ」との回答。お国柄が感じられました。(写真6)

(写真6) セルビアの司書

また、サマー・リーディングプログラムを発表していたスウェーデンの図書館司書は、夏休みに本を読みに来た8歳から12歳の子どもたちに、ただ好きな本を読み、その本を入れて家に持ち帰るバッグをプレゼントするという本好きを増やす取組を紹介してくれました。「ただ読むだけ」というのが、朝の読書と共通するところがあり、意気投合。展示していたバッグを外してプレゼントしてくれました。(写真7)

(写真7) スウェーデンの司書

ポスターセッションで話を聞くと、お互い顔を覚え、会場内や街で出会って「あら!」という感じで声を掛け合ったりします。

セッションに参加してみる

ネームタグには所属が書かれていて、私の場合は「Teacher Librarian」(司書教諭)です。公共図書館、学校図書館関係のリテラシーについてのセッションに参加してみました。

9:30~12:45で10名の発表と質疑応答。スウェーデン、ドイツ、オランダ、台湾、フィンランド、ポーランド、ニュージーランド、セネガル、イギリスそして世界全体としての見方での発表がありました。病院図書館の小児科病棟向けプログラムでは、2歳児には『おさるのジョージ』や『ミッフィー』の絵本、4歳児には『はらぺこあおむし』『かいじゅうたちのいるところ』を奨め、11歳児にはリーディング・クラブを行っていました。また、メディアエデュケータ―でライブラリアンであるフィンランドの図書館員の、ポケモンを模した「バンタモン」というキャラクターを使ったプログラミング、イギリスのハリーポッターブックナイトの取組と、スライドと発表者の熱意が英語の理解を助けてくれました。なかなか、全体会で質問する勇気はさすがの私にもありませんでしたが(笑)

ときには、このテーマに対して内容がずれているのでは? というのもありますが、セッション後に会場で発表者にばったり会い、質問をしたりすることもできました。(写真8)

(写真8) セッションの様子

パーティは絶好のコミュニケーションの場

今回は野外パーティで、暗くなってからは噴水のショーやバンド演奏、ポーランドの民族ダンスなど楽しい企画が盛りだくさん。参加者も色とりどりの民族衣装で着飾り、着物で参加した日本人は盛んにカメラを向けられ人気者に。普通の服での参加ももちろんOK。アルコールは種類が豊富で、フリードリンクチケットが一人2枚ネームタグについていて切り取って使います。早めに帰るいろんな国の人々がドリンク券をくれるので、十分お酒も楽しめました。美味しい料理もたっぷり用意されていて、19:00~23:59まで世界中の図書館員と交流。気が付けば日本人は私たち学校図書館系グループだけでした。夜は寒いので室内のディスコに行きましたが、外ではヘッドホンをつけて踊る「サイレントディスコ」が開催されていました。みんなで楽しく時間を忘れて踊り、最終シャトルバスに何とか間に合ってホテルに戻れば午前様というのが大会3日目の夜でした。(写真9,10)

(写真9) パーティ会場入り口

(写真10) 噴水に面したパーティ会場

前日にIFLA委員の明治大学の三浦太郎先生が日本人夕食会をアレンジしてくださっていたので(毎回企画あり)、日本人同士は顔見知りになっていました。日本人のIFLA参加者は、大学の研究者が多数とゼミの学生、国会図書館職員、図書館に関わる財団や協会人、公立高校司書、私立中学校司書教諭、大学職員等さまざまです。よその国では、公共図書館員が多数参加していましたので、日本も次回のアジア開催の折には公共図書館の参加者も増えるといいなと思います。

企業ブース

企業ブースではさまざまな製品のデモンストレーションを行ったり、開催国の文化体験コーナーもありました。参加企業はOCLC、infor、AXIELL等の図書館メーカー。開催市ヴロツワフの旅行センター、ポーランド図書館員協会(PLA)は、ポーランド国内の図書館情報や組織の紹介。前回のリヨンでは、活版印刷やギニョールと呼ばれる人形劇の人形を動かしてみる体験がありましたが、今回は文化体験コーナーは見つけきれませんでした。(写真11)

(写真11) 企業ブース

大会を支えるボランティア

3000人規模の大会を支えるには、ボランティアスタッフの存在は欠かせません。至るところに背中に「ASK ME」と書かれた赤いベストを着たスタッフがいて、親切に対応してくれました。大会後半の仕事が落ち着いた頃を狙って、登録カウンターインフォメーション係のボランティアに突撃インタビューを試みました。Anna J.Shelmerdineさんは、開催地ヴロツワフ出身で現在はオーストラリアの公共図書館に勤務する司書でした。彼女に大会参加者数や参加国数の公式発表の数字を教えてもらいました。以下Q&Aです。

ボランティアは何人ぐらいいるの?
Anna J.Shelmerdineさん(以下、Shelmerdine)およそ250人かしら。
どうしてボランティアに志願したの?
Shelmerdine今はオーストラリアに住んでいるけれど、インターナショナルボランティアの募集があって、ふるさとで開く大会に貢献したいと思ったの。
大会準備から大会中そして閉会と後片付けまで、毎日どう過ごしているの?
Shelmerdine夏休みを利用して2か月の里帰り中で、大会中は近くの大学寮を開放してもらってそこで暮らしながらここに通ってるの。
旅費が大変だったでしょう?
Shelmerdineまぁ、里帰りもできるし、大会参加費はボランティアは無料だし、みなさんのお役に立てることが嬉しいわ。ねぇ、この大会どうだった?
ボランティアが気持ちよく案内してくれて、スムースな会の進行と昼食のカフェが安くて美味しいのと、街並みがきれいなのとで満足しているわ。
Shelmerdineうわぁ嬉しいわ!ありがとう。

ポーランドは物価が安く、カフェでランチに飲むビールが5ズロチ(150円)、ペットボトルの水が1.75リットル1.89ズロチ(57円)と嬉しい価格でした。(写真12,13)

(写真12) ボランティアスタッフ

(写真13) スーパーの棚

ライブラリービジットに参加しよう

ライブラリービジットは最終日に行われ、いくつかのコースが設定されていて定員がありますから、初日に受付を済ませた後、カウンターで即申し込みます。公共図書館は自由に個人で見ることもできますが、学校図書館はツアーでないと見学できないので、私が元公立中司書教諭だったというのもあり、いつも学校図書館ツアーを選びます。今回は16ツアーが企画され、遠くまで移動するツアーは有料で10~15ユーロ。私のツアーは無料でした。

学校図書館ツアーは、朝9時に市の学校図書館教育センター集合でそこの見学。貸切バスに乗車してあと3校の中高校を見学しました。まず、司書教諭(専任)やそれを目指す学生たちのための研修センターがあり、しっかりと研修が組まれていることに感心しました。回った3校はどこも施設としてはそんなに広くはなく、設備が整っているわけではないのですが、きちんと司書教諭と司書がいてセンスの良い掲示や、催し、授業に十分活用されている学校図書館であることが見て取れました。

私にはポーランド人の友人がいて、40代の彼女は小中高大学で英語を習ったことはないと言っていましたが、確かにカフェやスーパーの若い店員さんは英語を話しますが、40代を超えると途端に話せない人が増えます。ティーチャーライブラリアンも司書も簡単な英単語すら理解できず、それは日本人が英語が話せないというレベルではなく、友人の言っていたことを再確認しました。それぞれの学校の英語科の先生や、ツアーガイドをしてくださった教育センターの方が、英語に通訳してくれました。ことばは通じなくても、同業者としての親近感溢れる交流ができました。どの学校もコーヒーやクッキーを用意してくれていて、予定時間を大幅に超えるツアーでしたが、楽しい見学でした。(写真14,15)

(写真14) 教育センター

(写真15) 高校図書館

街歩きを楽しもう

毎日ホテルから会場までを、公共の交通機関を使って行き来しますが、だんだんと街の地図が頭に入ってくると、途中まで歩いたり、目に留まる場所に寄り道したりができるようになります。ヴロツワフの街歩きの楽しさの一つに、旧市街の素敵な街並みの建物の片隅にブロンズでできたDwarf(こびと)を探すというのがあります。200か所にあるらしく、書店の前には本を読む姿、大学の前には角帽をかぶった姿と、さまざまな出で立ちのこびとを探すのは、無邪気に楽しいことです。6日間の会期中、丸1日を観光に充てることもあったりします。街中でネームタグをつけた各国の人々を見かけ、手を振ったり、情報交換をしたりするのもIFLAならではの楽しみ方です。(写真16,17)

(写真16) 大学前のこびと

(写真17) 教会の塔の上からの眺め

大会前後にプチ旅行

せっかく遠くまで行くのですから大会6日間の前後にちょっと近くの国を巡る旅をするのは、いかがでしょう?

ヨーロッパは特にEU加盟国なら日本で県境を越えるような気軽さで他国に行けます。今回私は、成田からドイツのデユッセルドルフに飛び、空港から1時間のオランダ在住のアメリカ人の友人宅に滞在し、ドイツ、ベルギーを車でドライブ。その後空路でポーランドへ、アメリカ人の友人たちと3人で移動。クラクフの街に2泊して街歩きとアウシュビッツ見学をして、車でヴロツワフへ。そこで、日本人の友人3人と合流。大会終了後にアウシュビッツに行くツアーもあったようですが、他の日本人参加者もかなりの割合でアウシュビッツを訪れていました。

アウシュビッツは同じ人間が行った歴史的事実から目をそらさず、1度は訪れてみるべき場所だと思います。前述のポーランド人の友人はクラクフ出身で、子どもの頃から学校の見学旅行で、何度も何度も発達段階に応じて見るポイントを変えながらアウシュビッツへ行き学んでいったと言いました。大人になって、旅行に来た知人を案内した回数も併せたら30回は行ったかもと。そんな彼女ですから、長崎に来ると真っ先に原爆資料館を訪れていました。アウシュビッツで身代わりになって自ら死を選んだポーランド人のコルベ神父は、長崎にいたことがあり、彼女も日本により親近感が沸いたようでした。プチ旅行の中で戦争の歴史を学ぶことも、大切なことだと思います。事前に行く先の国の歴史本や小説を読んで行くのも、その国を身近に感じられていいものです。ちなみに今回私が読んで行ったのは、高校生直木賞受賞作、須賀しのぶ『また、桜の国で』祥伝社と渡辺克義『物語ポーランドの歴史』中公新書でした。(写真18,19)

(写真18) アウシュビッツ

(写真19) アウシュビッツ

来年のIFLA84回大会は近いですよ!

IFLAのハードルがこのリポートでずいぶんと低くなったことを願います。今日からNHKラジオ英会話で耳を慣らして、来年の大会に参加してみませんか?

マレーシアのクアラルンプールで開かれる第84回大会は、2018年8月25日オープニングで30日まで。せっかくなのでポスターセッションやってみようかな? とりあえず参加してみようかな? というあなた。世界を広げてみようではありませんか。

フランクフルトから乗った帰りの飛行機で、ドイツで車の修理をしてきたという私の長男と同い年のMAZDA勤務の青年が隣の席でした。図書館の世界大会に行ったと話したら、「どうやって優勝を決めるんですか?」と速攻で質問されました。以前教えていた中学生が同じ質問をしました(笑)。IFLAに優勝はありませんが、参加したみんなが金メダルをもらった気分で帰ることのできる大会だと私は思います。

著者紹介
  • 山本 みづほ (独立系司書教諭)