なかの人たち

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第1回 稲場雅子 様社団法人 日本図書館協会 資料室

掲載:2010年10月5日

図書館にかかわる人たちならば誰もが知っている日本図書館協会ですが、その資料室を訪れたことがある人は意外とすくないのではないでしょうか。
今回は、そこで働く司書の稲場雅子さんにお話を伺うため、資料室を訪ねました。

稲場 雅子 様
社団法人 日本図書館協会 資料室
〒104-0033 東京都中央区新川1-11-14
TEL 03-3523-0811
FAX 03-3523-0841
Webサイト
http://www.jla.or.jp/lib.html
利用資格:閲覧・レファレンス・複写はどなたでもご利用いただけます。
図書の貸出は協会会員のみです。
掲載している情報は2010年9月現在のものです。

ドタバタで始まった「図書館員」生活

person_inaba_03.jpgさっそくですが、稲場さんのプロフィールについておうかがいしたいのですが。

稲場雅子さん(以下、稲場)私は群馬県の出身なんですが、高校生くらいまでは、図書館はそれほど身近なものではなかったんです。でも本は好きで、本に関係するような仕事に就きたいな、という気持ちはありました。そんな中で、母に教えられて図書館情報大学[※1]を知り、進学することになりました。

就職は公共図書館ということですが。

稲場ちょうど私が大学を卒業する2000年の春に、地元で広域立の図書館がオープンする予定だと知ったんです。
そこで、運営を請け負う中之条町の採用試験を受けたところ、採用されることになりまして。面接の際に、図書館の勉強をしてきたことを話したら、「じゃあ」っていうことで図書館に配属が決まりました(笑)。

とてもタイミングが良かったわけですね。そして、採用されてすぐに図書館がオープンしたということですか?

稲場そうなんです。2000年の3月に大学を卒業して、そのまま4月1日に採用。そして約2週間後の4月15日がオープンという状況(笑)。

4月1日の時点では、まだまだ準備できていないこともたくさんあって…。私は町の新任職員研修が通常3日のところを1日半で繰り上げ、「残りは図書館で研修しなさい」ということになりました。それで図書館に行ってみたら、いきなり「君はシステム担当だからね!」と言われて(笑)。そこからはもう、怒涛の毎日でした。本当に、一からの図書館の立ち上げで。そこでは7年間、2007年の3月まで勤めました。

person_inaba_04.jpgそして東京に?

稲場はい。結婚を機に上京しました。東京での職場を色々と探していた矢先、2007年に全国図書館大会が20年ぶりに東京で開催されるにあたり、誰か事務局を手伝える人はいないか、ということで私に声がかかって。さらに当時、この資料室の担当者だった方が辞められることになって、私は資料室担当兼大会事務ということで2007年の6月からこちらに勤め始めました。

またしてもタイミングが合ったわけですね(笑)。


人と人とのつながりを生む活動

全国図書館大会と言えば、昨年(2009年)も東京で開催されましたね。大会会期が1日と規模が小さかった一方で、前夜祭としてFuture Librarian 全国図書館大会U40[※2]プレミアセッション(以下U40)が開催され、話題を呼びましたね。

稲場はい。ちょっと大会自体より話題になっていたくらい(笑)。

稲場さんはU40の方にも事務局員として関わられていたんですね。

稲場はい。でも2009年は再び大会事務局だったので、オブザーバー的な関わり方でした。実際にU40の事務局員として活動しているのは、今年からです 。

私たちの世代、20代から30代の人たちというのは、職場に同期があまり居ないし、下もいないんです。上は…というと、5つ以上年上なんてことが多い。だから、こういう機会でもないと横のつながりがなかなかできないんです。

それから、U40は公共図書館以外の人も多く参加しているということも自分にとっては重要でした。私は、現在は専門図書館ですが、元々公共図書館から出発しているのでどうしても視点が公共図書館寄りになります。公共は数も多いし、公共だけでの集まりなどもあるのですが、それとは全然違うところで関われるのがU40の魅力でした。

稲場さんは図書館問題研究会(以下、図問研)[※3]の活動にも関わっていらっしゃいますね。

稲場はい、それはこちらに来るもっと以前からです。群馬でお世話になっていた図書館の方が参加されていたのがきっかけで、群馬支部で活動していました。

図問研というと、堅いイメージがあるかもしれませんが、最近はもっと分かりやすい言葉で説明していこう、開いていこうと心がけているところです。私は今機関誌『みんなの図書館』の編集に関わっているのですが、その400号記念では、図問研の外の方から図問研について書いていただきました。

厳しい意見も少なからずあったようですが。

稲場自分としては、もっと厳しいことを言われると思っていたので、皆さん心優しく書いてくださったなあ、と思っています。いずれにしても、外部の方の意見を、批判なら批判として聞いたうえで、図問研としての考えがあれば述べればいいし、批判の通りであれば「それは良くなかった」と直していけばいいと考えています。

外とのつながりが、中の問題解決の糸口に

person_inaba_05.jpgお話をうかがっていると、図問研にしてもU40にしても、「人と人とのつながり」を生む活動に積極的に関わっていこうという基本姿勢のようなものが感じられます。

稲場それは公共図書館時代からできるだけ心がけてきたことです。

公共図書館では、地域の方とのネットワークも欠かせないものでした。たとえば、所蔵している地域資料や町の歴史民俗資料館で対応できないレファレンスは、最終的には町の郷土史家に頼らざるを得ません。日頃からのつながりがあれば、困った時にどの方に聞けばいいのか、どの方面の方に聞いたらその先につながりそうかが分かるんです。そして、「稲場さんが困っているなら助けてやるかあ」と言っていただけることもある(笑)。

だからこそ、人と人とのつながりは、できるだけ広く持っておきたいと思っています。自分はまだまだ公共図書館寄りなので、もっと専門図書館の世界でのつながりを作っていきたいと思っているし、図書館や本に関わる世界ということで、出版社や作家さんとのつながり、IT業界とのつながりなどもとても大切だと考えています。

外の世界の方々と関わるときに、気をつけていることなどはありますか。

稲場自分たちの使っている言葉を当たり前だと思わないように…例えば「ヤングアダルトサービス」とか「ブックトラック」とか「配架(排架)」とか。一般の方には「?」という言葉なんですよね。まあ、この資料室で仕事をしているだけなら、そういう気遣いは全然必要なくて、むしろ私が利用者さんの使っている用語が分からなかったりするくらいなんですけれど(笑)。

図書館というのは不思議な職場で、外へ出ようとか、新しいことを知ろうとか思わなくても、それはそれで済んでしまうところがあります。でも逆に「やろう」と思うと、今度は果てがない。自分で到達点を決めない限りは、ここがゴール、という地点がないんです。

自分のことで言えば、中(資料室)の仕事が完璧にできているとは言えない。やることは山ほどあるんです。だから、自分の発散のために外に出ていくという側面もありますが、実は外に出ていくことで、中でずっと抱えていたものがいとも簡単に解決してしまうこともあるんです。だから、中とか外とか優先順位は決めずに、とにかくやってみよう、出てみよう、って。

日々、鍛えられています

person_inaba_06.jpg資料室についてもお聞きしたいと思います。成り立ちなどについて簡単に教えていただけますか。

稲場 1950年代初めくらいの図書館雑誌を見ると、国立国会図書館の支部図書館である上野図書館(現・国際こども図書館)内に協会があり、そこに図書館報などの資料が集まるようになり、それを保管し紹介するために図書館雑誌に「資料室」というコーナーができたのがはじまりのようです。その後、協会は世田谷に移り、1998年に現在の場所(東京都中央区)に移ってきました。世田谷は協会が初めて作った図書館会館で、この時に「内外の図書および図書館関係資料を収集・整理・保存し利用するところの『図書館の図書館』」[※4]として、資料室ができました。収集した資料を保存・提供することももちろんですが、協会が『日本の図書館』や『図書館年鑑』といった刊行物を作るための資料を収集することも、この資料室の重要な機能です。

協会の定款にも、事業の項目に「図書館関係資料室及びモデルライブラリーの設置運営」とあり、資料室の運営は協会の重要な事業の一つとしてもあげられています。

図書館協会の会員であれば利用出来るということで、入口には「図書館および図書館情報学に関する調査・研究のための専門資料室」と掲げられています。実際には、どういった利用が多いのでしょうか?

稲場来館しての利用というのはあまりなくて、どちらかというと複写依頼が多いです。

遠隔サービスということですね。

稲場はい。FAX・メール・郵送などで依頼を受け付けています。

よく利用される資料というと?

稲場図書よりは、雑誌記事とか図書館報とか、あとは各県の要覧とか友の会の会報とか。もちろん全てがそろっているわけじゃないんですが、そういうものを探しに来る方が多いですね。東京でそうした資料を探すには、現在ではもうこの資料室くらいしかないので。所蔵してる資料や利用の仕方など、もっと皆さんにアピールしていきたい気持ちはありますが、なかなか手が回っていない状況です。

確かに、この資料室にどんな資料があってどんなサービスが受けられるのかは意外と知られていない気もします。結構な量の資料がありますよね。

稲場まだまだ未整理の資料もあるんですよ。図書館の大先輩からの貴重な資料の寄贈もありますから。

歴史的にも貴重なものがたくさんありそうですね。こういうお話を聞くと、やはり専門図書館だなあと感じますね。

稲場お問い合わせは、大学の先生などから来ることもあります。もう調べられることは調べ尽くして問い合わせてこられることが多いので、そういう依頼に対応していくのはとても大変です。

利用者にとっては、この分野における最後の砦なんでしょうね。

稲場もう、名前も聞いたことのない人物についてのお問い合わせなんかもあります。まずは自分でとにかく書架を走り回って、これか?それともこれか?と調べる。それでも分からなければ協会理事などに聞いて対応しています。

person_inaba_07.jpg以前の公共図書館のお仕事と比べて、いかがでしょうか?

稲場それはもう全然違いますね。公共図書館の時はカウンター業務も企画も対外折衝も、なんでもやっていました。担当業務は、敢えて言うなら「全般」(笑)。主題知識も、0門から9門まで広く浅く、できれば広く深く、が求められました。 大変でしたが、利用者と切磋琢磨しながら共に成長しているという感じでしたね。でも、ここでは一つのことを深く掘り下げていく必要があります。利用者には自分よりはるかに知識のある人もいて、日々鍛えられているという感じです。

そろそろ中堅、ステップアップの時期です

お話をうかがっていて、最初は就職にしても転職にしても「なんてタイミングに恵まれた方なんだろう」と思いましたが、結局は日頃からの努力の結晶である「人とのつながり」がもたらした縁なんだということがよく分かりました。

稲場いや、就職については本当にただ運が良かったんだと思いますが(笑)、その先は確かに人と人とのつながりがなければめぐり会えなかったことばかりだと思っています。

今後、こうなりたい、こういうことに取り組んでいきたいということがあればお聞かせください。

稲場この資料室が図書館界にとって大切なものだと思うからこそ、そういった仕事の継続性、ノウハウの継承ということについて自分なりの立場で考えていきたいと思っています。そして、もっと資料が利用しやすいように、分かりやすいようにという体制も考えていきたい。そういうことは私の一存で決まることではありませんが、現場から提案していく必要があると思っています。

あと、個人的なところでは、年齢的なことも考えて、そろそろワンステップ上がっていかなければと思っています。

色々な活動に参加していますし、そういう場で下っ端として動き回るのは大好きなんですけど、世代的なことを考えるとそろそろ中堅どころとして、「責任」というようなことを意識しなければと思っているんです。そのためには、今まで以上に会議や研修に参加して勉強していかなければいけないと思います。言うばっかりでなかなか難しいんですけど(笑)

視点も一つ上に上がる感じですね。

稲場色々な方法があると思います。若手が出会って情報共有することもそうです。現在、図書館界には雇用問題など、様々な難しい問題があるわけですが、そうしたことを解決していくためにも、まずは自分が、とにかく少しずつでもレベルアップして、そうすることで図書館界全体のレベルアップを目指さないといけない。そしてそこには、人と「会う」という行動が欠かせないんです。この辺りは、自分として曲げずに持っていたい信念みたいなものですね。

今日は、お話をうかがえて本当に良かったです。Jcrossリニューアル第1弾のインタビューにご登場いただき、ありがとうございました。

稲場Jcrossは2000年開設だったんですね。私は2000年に就職しましたけど、その頃から使っていたのでもっと以前からあるサイトなのかと思っていました。できたばっかりだったんですね。

ということは、2000年にスタートを切った10周年仲間ということですね!不思議な縁を感じます。

(2010年9月 社団法人日本図書館協会資料室にて)

なかの人たちのとある一日

- 出勤。資料室開室。
10:00 新聞(朝日、毎日、日経)チェック
郵便物チェック
11:00
12:00 お昼休み
13:00 新着資料の登録(雑誌、機関誌、単行書 等)
レファンス、複写依頼の処理など
14:00
15:00 新聞(朝日、毎日、日経)チェック
郵便物チェック
16:00
17:00 登録、配架等
- 17:00閉館。帰宅
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