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専門図書館見学記

横浜美術館 美術情報センター

掲載:2017年7月4日
図書館名
横浜美術館 美術情報センター
住所
神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4−1
URL
http://yokohama.art.museum/research/center/

横浜美術館に図書室がある?

皆さんは横浜美術館に行かれたことはありますか?そして、そこには、10万冊を超える図書や映像資料などを所蔵する「美術情報センター」があることを知っていますか?

横浜美術館は、横浜のみなとみらい地区にある、近・現代美術を中心に豊富なコレクションを持つ美術館で、年間を通し様々なコレクション展や企画展を開催しています。横に広く左右対称な建物は丹下健三氏の設計によるもので、美術館のエントランス前に広がる大きな広場は、近年オープンした大型商業施設にも隣接していることもあり平日でもたくさんの人でにぎわっています。

横浜美術館外観

実は私も、今回の訪問で初めて美術情報センターの存在を知りました。

美術情報センターがあるのは、美術館のエントランスに向かって左側の端で、美術館の入場料を払わなくても外から直接入ることができる入口があり、誰でも無料で利用できるのです。

この入口はレストランへの入口と同じところで少々わかりにくいのですが、最近リニューアルして設置された、このサインボードが目印です。

美術情報センターの入口

また、美術館の中(コレクション展示室)から廊下を通って美術情報センターにはいる入口もあります。

館内の様子

私たちは今回、外の入口の方から入りました。

案内に従い、階段またはエレベーターで3Fまで昇ると、美術情報センターの入口があります。正面入口が2Fに位置するので、少々わかりにくいですが。

入口を入ると、手荷物用のロッカーがあります。美術館のロッカーは、美術館に入る前にあるのが普通で、最初はちょっと不思議に思いましたが、動線がいくつもあることに対する配慮だと納得しました。この美術情報センターは、来館者だけでなく学芸員などの美術スタッフも利用する場所なので、このような配慮になっているのでしょう。

国内有数の規模を誇る横浜美術館が開館したのは1989年。開館当初から、展示室だけでなく、美術に関する調査・研究のための美術情報センターと市民のための創作活動拠点(建物右端)を併設しています。現在、美術情報センターでは、近・現代を中心とした美術関係資料として、開架・閉架あわせて約11万冊の図書資料と約3000タイトルの逐次刊行物、約580タイトルの映像資料を所蔵し、これらを無料で閲覧公開しています。

書架の様子

資料を借りてかえることはできませんが、国内外の様々な美術雑誌から、研究者のための専門書まで、個人ではとても買うことができないような資料を自由に手にとって閲覧できるって凄いと思いませんか?

美術情報センター内にあるパソコンでは、所蔵資料全般と、横浜美術館コレクションの検索に加え、他の美術館図書室蔵書も調べることができます。

今回は、閲覧室(開架部分)だけでなく、バックヤード(閉架部分)も見学させてもらいました。その中からいくつかを紹介します。

中村文庫

中村文庫

「中村文庫」は、鎌倉女子大学教授であった中村亨氏から、1988 年に氏が永年にわたって蒐集した日本の美術教科書や美術教育に関する資料を寄贈されたものです。日本における最初の美術教科書である明治4年刊行の『西画指南』を始め、戦時体制下の美術教科書などが含まれていて、美術の先生が見たら、思わず食いついてしまうようなコレクションでした。

通称マグリット文庫

横浜美術館のコレクションに関連する資料も充実していました。

こちらは、「マグリット文庫」と内部で呼びならわしているという資料群です。現在はまとまった資料としてデータ公開の在り方を検討中であるため、美術館関係者にもあまり知られていないようですが、国内ではこの文庫にしかないような資料も含んでいます。簡素なスチールのキャビネットにぎっしりと資料が詰まっています。

マグリット文庫

カタログ

展覧会カタログも、重要な所蔵資料の一つです。展覧会カタログはNDCの分類になじまないため、横浜美術館では、開催地(美術館)ごとに分類されていました。

展覧会カタログの分類表

展覧会カタログは、 閲覧室でも人気のコーナーだそうす。

展覧会カタログ

横浜美術館も加盟している、美術図書のコンソーシアムであるALC(Art Libraries' Consortium、美術図書館連絡会)では、加盟館どうしで展覧会カタログを速やかに寄贈し合う仕組みがあるため、開催されるとすぐにここで閲覧できるようになります。ですから、ここで別の美術館の展覧会カタログを見て、「この絵があるなら是非この展覧会に行こう!」という楽しみ方もあるそうです。

ちなみに、展覧会カタログといえば、展覧会の期間中しか販売されず一般に流通しないため入手が困難な資料の一つと言われていますが、最近では展覧会を開催する美術館ではなく、出版社が展覧会カタログを出版するケースも多くなっているそうです。出版社が発行する場合はISBNも付与され、展覧会終了後にも購入できるのが嬉しいところです。

見学を終えて

この美術情報センターは、生涯学習のメッカといっても過言ではない充実した専門資料を持っている上に一般公開されているので、もっと知名度がアップしてもいいのではないかと思いましたが、一方で貴重な資料を含め、増え続ける専門資料をきちんと整理・保存しながら利用者サービスを行うというのは大変なことで、あまりにも来館者が増えたら、十分な対応ができなくなるのかもしれません。もっと利用してほしいけれど…というジレンマはどこの専門図書館も抱えている問題です。文化を守り、後世へ引き継ぐために、重要な課題だと改めて感じました。

見学者
  • 高野 一枝 (ライブラリコーディネーター)
見学した専門図書館
横浜美術館 美術情報センター