なかの人たち
第5回 ほんとも 様
小中学校の図書館で実際に学校司書をしながら「ほんとも!~学校図書館おたすけサイト~」を個人的に運営する通称ほんともさん。今回はほんともさんに学校司書として、サイト運営者としてのお話をうかがいます。
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- ほんとも 様
- ほんとも!~学校図書館おたすけサイト~
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- Webサイト
- http://hontomo.wwww.jp/
- 掲載している情報は2013年9月現在のものです。
外遊びが大好きな少年時代
ほんともさんが子どもの頃はどのような少年でしたか?
ほんともさん(以下、敬称略)今は学校司書という立場で子どもたちに読書をすすめていますが、自分が子どもの頃はほとんど本を読みませんでした(笑)。どちらかというとスポーツ少年で、マラソンが得意だったので、小学校の卒業文集では将来の夢に「マラソン選手」と書いていました。
野球やサッカー、ソフトテニス、釣りや近所の川で遊ぶのも好きで外でよく遊ぶ子どもでした。
確かに、ほんともさんはマラソンが得意と聞いて納得してしまうようなアスリート体型で運動神経がよさそうですね。
ほんとも今でもソフトテニスは続けています。趣味は多くて他にも山登り、映画鑑賞や写真撮影、旅行も好きです。特技は…カラオケでしょうか?ひとりで行くこともあります(笑)。
本に興味を持ったきっかけは何ですか?
ほんとも中学3年の時に塾の先生から歴史漫画を借りたのがきっかけです。
その後高校の現代国語の授業で「読書ノート」という宿題があり、本を読んだ感想や絵をノートに書いて提出すると先生がコメントを入れて返してくれるというものだったのですが、そのコメントが嬉しくてよく読むようになりました。
アウトドアが好きだったことから椎名誠や江國滋など、旅をテーマにした作品に惹かれてよく読んでいました。
同じ本を何度も読み返すタイプではないのですが、沢木耕太郎の「深夜特急」は特に好きで、唯一今でも休みのたびに読み返していますが、その時々で感じ方が変わるので面白いです。
ちなみに、ここ1、2年好きで読んでいるものに竹下文子さんの「黒ねこサンゴロウ」シリーズがありますがやはり旅ものです(笑)。
ネットショップで副店長
今の仕事にたどり着くまでの話をお聞かせいただけますか?
ほんとも大学は教育学部でしたが、教員免許を取らなくても卒業ができる学科でした。大学を卒業してすぐはネットショップで副店長をしていました。
ただ、ネットショップでは売上が第一なので、どうしても数字に追われたり、サービスを提供したくてもコストの問題でできなかったりと、「もっとサービスしたくもできない」ということにもどかしさを覚えるようになりました。
そのような経験からお金に縛られずにサービスが提供できる図書館での仕事に魅力を感じるようになりました。
当時の図書館はデータベース検索の必要が言われていたり、目録の電子化などが始まったりした頃でした。僕はパソコンのスキルもあったので、自分に向いているかなと思いました。
ネットショップを辞めて、図書館で働こうと思った時にちょうど司書講習の夏期集中講座の募集があったので受講しました。夏季集中講座は図書館学が基礎から理解しやすいように授業が組み立てられていて、わかりやすくてしかもとても楽しかったのを覚えています。夏期集中講座で司書資格を取得していなかったら司書になっていなかったかもしれません。
講習後はすぐに図書館で働き始めたのですか?
ほんとも夏期集中講座で知り合いになった方の紹介で、資格を取得してからすぐに大学図書館で働きはじめました。カウンター業務を中心にレファレンスやILLも担当していました。
最初は学校図書館ではなくて大学図書館だったのですね。
ほんともそうですね。ただ、大学図書館で働く中で学生さんたちが図書館の使い方をあまり知らなくて、この原因はなんなのだろう?と感じ、学校図書館に興味はありました。
大学図書館では派遣社員の身分だったのですが、契約更新のタイミングで、地元の学校司書の募集を知り、応募をしました。面接では新美南吉の作品について聞かれてパッと答えられなかったり、「かいけつゾロリ」の作者を答えられなかったりと散々だったので不合格かと思ったのですが、結果的には採用していただけました。
大学図書館の契約更新をすることもできたのですが、レファレンスやILLから離れて現場の責任者に移行するような方針と聞かされ、僕は図書館の実務経験やいろんな図書館での経験をもっと積みたかったので、学校図書館という新しいフィールドにチャレンジしようと決断しました。
チャレンジ精神が旺盛ですね。大学図書館から学校図書館というと勝手がずいぶん違うように思いますが、いかがでしたか?
ほんとも大学図書館とは全然違いました(笑)。初めて学校司書として配属された時、前任者からの引継ぎ書がA4のプリント1枚しかなくて…途方に暮れました。「途方に暮れる」という言葉の意味をこの時身をもって知りました。
それは大変でしたね!!どのようにしてその窮地を切り抜けたのですか?!
ほんともいちから自分で調べて勉強しました。
読み聞かせについての本を読んだり、市立図書館のお話会を聞きに行ったりして、ひと月に30冊、あるいはもっとたくさん絵本を読んで勉強をしました。
そうして1年間季節や行事に合った絵本をたくさん読んでいく中で、これをちゃんと記録しておかないと来年も同じように苦労すると思い、まずはパソコンで個人的な絵本データベースを作成しました。
もしかして…「ほんとも!」の原型誕生ですか?!
ほんともはい。それを使っているうちに、これはインターネット上で他の学校司書さんも見られるようにしたら便利なのでは?と思い、色々と試行錯誤をして最初のhtml版の「ほんとも!」ができました。この時にはネットショップの勤務経験が大いに役立ちました。
実はインターネット上の絵本データベース自体は既にあったのですが、「パソコン初心者でも見やすい」ということを意識して、htmlタグを書いてマウス操作だけで使えるサイトを作りたいと思いました。
そんな風にサイト構成などを考えながら同時進行で自校の図書館の改装にも手を付けはじめました。そのような作業を通じて、予算の無い中で100均グッズなどを使ってサインを作る小ワザや、小学校版のNDC分類一覧などのような業務に役立つデータも紹介したら便利なのでは?と思い、読み聞かせ絵本データベース+小ワザ集+データ集の「ほんとも!」が誕生しました。
現在の「ほんとも」サイト
すばらしい!!(拍手)
ほんとも自分が赴任した時に引き継ぎなどがなくて困ったので、他の学校司書の方には同じような苦労をしてほしくないという思いでサイトを運営しています。
なるほど。苦難を経験したからこその「ほんとも!」だったのですね。プラスほんともさんのチャレンジ精神とサービス精神のたまものですね。
学校図書館で働きながら「ほんとも!」を運営
学校図書館で働きながらサイトを運営することは大変だと思うのですが、いかがですか?
ほんとも苦労は特に無いのですが、サイトの更新時間をなかなか取れないのが難点です。
昨年、更新しやすいようにサイト構成を大幅に変更したのですが、それでもなかなか更新できなくて申し訳なく思います。
こういったデータベースサイトはコンテンツが多くてなんぼなので、ともかく少しずつでも更新して内容を充実させていきたいと思います。
「ほんとも!」で一番人気のコンテンツはなんですか?
ほんとも実は特にアクセス解析などをしていないので、どのコンテンツが一番人気なのかわかりません…。「ほんとも!」は自分の実践を発表する場なので、基本的に自分のやっていることを随時アップしているだけで、実は見ている人のことはあまり意識していません。
ただ、実際にお会いした人から「サイト見ています!」とか「役立たせてもらっています!」と言われるととても嬉しく感じます。いろんなコンテンツを褒めていただいているので、どのコンテンツも好評のようです。
また、日頃はTwitterで情報発信をしているのですが、Twitterでいろんな方から学校図書館に関する情報提供をしていただいたりして、とても助かっています。
自分ではネットの片隅でちまちまやっているつもりだったのですが、期せずしていつの間にやら有名になってしまい驚いています。
それは意外でした!その力みのない自然な感じが支持されている要因のひとつかもしれませんね。今後「ほんとも!」でやりたいことはありますか?
ほんとも「ほんとも!」主催で何かイベントをできればなぁ…と考えています。オフ会などは何度かしたことがあるのですが、もうちょっとしっかりとした情報交換会、あるいは実践報告会のようなものをやりたいのですが、やはり時間が…。
ひとり職場の多い学校図書館において、そのような機会はとても望まれていそうですね。大変だと思いますが、実現できるといいですね。
学校司書としての様々なチャレンジ
現在の職場は学校図書館としては2校目なのですよね?
ほんともはい。今の学校は2校目で、年度途中からの赴任だったのですが、1年目は慣れるのに精いっぱいでした。
2年目からはいろんな先生に学校司書ができることをPRをして回りました。また調べ学習を1年から6年まで系統立てて学校全体で取組む必要を訴えました。
昨年度は学内で学校図書館教育をテーマにした部会が立ち上がり、先生と連動して授業づくりを行えるようになりました。その結果、それまでは学年によって取り組みに差のあった調べ学習も、全学年を通して行えるようになりました。
また調べ学習と両軸を成すものとして、1年から6年まで全学年で読書習慣を身に付けるための取り組みも行っています。
いずれにしても学校司書ひとりの力では何もできません。学校内に組織を作って学校全体で足並みを揃えて進めていくことが大事ですね。
組織的な取り組みにできたことは大きな成果ですね。
学校司書は毎日が冒険?!
話は変わりますが、学校司書というと女性が多いですよね?
ほんとも今勤務している市内で男性は僕一人だけです。
これまでも男性の小学校の学校司書さんはお二人しかお会いしたことがありません。
高校だともう少し多いみたいですが、小中学校ではほんとうに少ないですね。
男性は少ないとは思っていましたが、そんなに少ないのですね~!
仕事をする上で、男性ならではという点はありますか?また、男性ということで苦労することはありますか?
ほんともひとり職場なので女性だとどうかというのを比べることができないので何とも言えませんが、男子児童に好かれることが多い気がします。そのせいかうちの学校では図書委員会も男子がとても多いです。
そのほか、絵本の読み聞かせで、活劇調のものや落語絵本などは、女性より男性の方が読みやすいように思います。逆にお姫様が主人公の絵本を読むのは苦手ですね。
読み聞かせをする時には登場人物に合わせて声色を変えるものですか?
ほんとも僕は子どもたちが本の世界をイメージしやすくなるよう“声を変えて読む派”です。
口調も変えるし声質も変えて読みます。声質を変えるべきかどうかは意見が別れるところですね。
楽しそうですね。ちょっと見てみたいです!
ほんともちょっとやりましょうか(笑)?
ぜひ見てみたいです!
(読み聞かせの実演を見せてくれるほんともさん)
わぁ~!ありがとうございました(拍手)。
でも、今のような盛り上がる本だと、読み聞かせの最中で騒がしくなってしまうことはありませんか?
ほんとも読み聞かせの時は別のことをしていたり、おしゃべりをする児童がいればしっかり注意をしているので、子どもたちからは怖い先生だと思われているのではないでしょうか(笑)。
それは意外ですね!今お話しをしている穏やかな様子からは「怖い」イメージができません!
ほんとも図書の時間で読み聞かせをすると「楽しい時間」って思っている子どもが多いようですが、やはり授業なので、勉強の時間としてしっかり本を読めるようにしていこうと思っています。授業としてメリハリをつけようとするとどうしても厳しくせざるを得ない場面もありますね。
しっかりと指導も行っているのですね。
ほんとも僕は教育色が強い司書だと思います。
いろいろな考えがありますが、学校図書館は学校にあるのだから学校教育にどう関わっていくかを考えないといけないと思います。
学校図書館法にも学校図書館は「学校の教育課程の展開に寄与する」と書かれているので、先生から「調べ学習で使うから」と言われただ本をごそっと渡すだけでは、「展開に寄与」しているとは言えないと考えています。
もっと授業づくりに積極的に関わり、学校図書館の使い方や資料・情報の活用のしかた、探究的なスキルを子どもたちが学べるような役割を学校図書館は担わなければならないという思いが根底にあります。
もちろん指導するのは楽しいから、やりがいがあるからやっているというのもありますが。
確かに、お話しを伺っていると「大変そう」ではなくとても楽しそうです。
ほんともそうですね。たいていのことはゼロから自分で考えて試行錯誤をしながらやっています。大変ですけど、面白いしやりがいがあります。
またそれを「ほんとも!」を通じて他の人に広めていくというのも好きですし、これからもやっていきたいです。
僕にとっては学校司書という仕事は、何か未踏の地を探検するような感じですね。
頭の中ではツルハシ持って開拓しているイメージですね(笑)。
性格的にも合っていると思います。「やれるっ!」と思ったらどんどん進んで行ってしまうタイプです。
冒険なのですね。
ほんとも趣味と仕事がつながりましたね。今まで自分でもそんな風に思ってなかったです(笑)。
これからも「ほんとも!」で情報発信を
学校図書館が今後こうなってほしいという希望はありますか?
ほんとも学校図書館で勤務している人々の雇用条件をもっと改善して欲しい、というのが最大の願いです。そのためには厳しい雇用条件ながらも、学校司書ひとりひとりが頑張って、「学校司書はこれだけのことができるんだ!」「学校司書は学校図書館の専門家なんだ!」と思ってもらえるよう、現場で優れた実践を行っていくのが最低限必要なことだと考えています。
そのために、「ほんとも!」で情報発信をして、少しでも他の学校司書さんたちを「おたすけ」していければ、と考えています。
本日は貴重なお話しを聞かせていただき、さらには読み聞かせの実演までしていただきありがとうございました。
「自分と同じ辛い経験をさせたくない」と語るほんともさんが、黄色いヘルメットをかぶってツルハシを持ち、未踏の地を開拓しながら先導する頼もしいリーダーに見えてきました。
これからもほんともさんのご活躍に注目をしてきたいと思います。
なかの人たちのとある一日
7:45頃 | 出勤。出勤簿にハンコを押し、子ども新聞と図書館の鍵を持って、図書館へ。 |
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8:00頃 | まず新聞の配架をして、ライブラリーカレンダーの日付を変えます。 予約本の連絡表を書いたり、読み聞かせ候補の絵本を読んだりもしています。 |
8:20 ~8:45 |
職員朝礼がある時は朝礼に出席。朝礼が終わったあとや、朝礼が無い時はすぐに教室を回って予約本が届いた子に、「届いたよー」と声を掛けて連絡表を渡しています。 なんとなく、自分の手で直接教室に渡しに行った方が、子どもたちとの距離が縮まるかなと思って毎日配っています。 |
1時限目 2時限目 |
図書の時間が入っている時は、読み聞かせをしたり、調べ学習の内容に合わせた利用指導などを1~6年生にしています。 また、カウンターで貸出・返却をしつつ、本の修理なども同時に行ったりしています。 |
20分休憩 | 開館して、子どもたちが来館。貸出・返却・予約の受付&貸出に追われます。図書委員の子どもたちの活動も横目で見守っています。 |
3時限目 4時限目 |
1.2時限目に同じ。 |
昼休み | 職員室で給食を食べます。専科(家庭科や図工や音楽や保健)の先生たちとおしゃべりしながら食べています。たわいない雑談もすれば、子どもたちの状況を話し合うことも。 |
お昼休憩 | 20分休憩に同じ。月曜日はこの昼休みに新刊を出すのですが、バーゲーンセールのように新刊の棚に子どもたちが群がって来ます。 |
掃除 | 掃除担当の子どもたちと一緒に掃除をします。展示棚に次に図書の時間のある学年に合わせて本を展示してもらったりもしています。 |
5時限目 6時限目 |
午後は授業が少ないので、この時間に読み聞かせの絵本や購入する本の選書をしたり、利用指導の準備をしたり、新刊本を受け入れたりしています。 |
放課後 | 放課後も開館しています。あまり利用はありませんが高学年の女の子が何故か良く来ます。また、一緒に帰るための待ち合わせ場所になることも。 |
16時の閉館~退勤まで | よく「あれだけたくさんのことをしていたら残業が大変じゃないですか?」と聞かれますが、意外?にもあまり残業はしていません。退勤時間までは修理やその他色々な細かい仕事をこなしています。 |