なかの人たち

このエントリーをはてなブックマークに追加

第6回 藤澤聡子 様アサヒ ラボ・ガーデン

掲載:2014年5月7日

大阪駅からほど近いビルの4Fにある、アサヒグループホールディングス株式会社の運営するアサヒ ラボ・ガーデン。今回は、このアサヒ ラボ・ガーデンの企画・運営に携わっている藤澤聡子さんにお話をうかがいます。

藤澤 聡子 様
アサヒ ラボ・ガーデン
〒530-0018 大阪府大阪市北区小松原町2番4号 大阪富国生命ビル4Fまちラボ内
Webサイト
http://www.asahigroup-holdings.com/research/labgarden/
掲載している情報は2014年4月現在のものです。

町の図書館のおばちゃんになりたかった女の子が企業図書館へ

藤澤さんは、企業図書館に司書として配属されたのがキャリアの始まりとか。子どもの頃から図書館で働こうと思っていたのですか?

person_fujisawa_01.jpg藤澤はい、生まれ育ったのは大分県なんですが、図書館くらいしか娯楽のない田舎で。だから“図書館のおばちゃん”というのはとても身近な存在で、楽しそうな仕事だなーと思ってました。それで、大学受験の時、がーっと勉強して図書館情報大学に受かった、と。

でも、就職のときに、公共図書館で働くには公務員試験に受からないとダメなんだ!ってことに気づいて早々に諦めました(笑)。当時はSEの求人が多くて、周囲でもSEとして企業に就職する人が多かったので、自分もそれなら何とかなるかなと思ってました。でも、偶然なんですが、今の会社の司書の求人に出会って。

衝撃の"成田異動"

藤澤まあ、それでもなんとか試験にも受かって、2003年に入社しました。基本的に仕事はリサーチャーでした。お酒だから発酵系ですね。社内の研究者や技術者にリサーチをして情報を届けるという仕事です。早く役に立てるように少しずつ主題についても勉強していこうと思っていたんですが、そんな矢先に異動になりまして。

2005年に、専門図書館協議会の資金援助を受けてカナダのトロントで開催されたSLA(Special Library Association, 米国専門図書館協会)の年次大会に参加したんですが、終わって成田に戻ってきたところで上司に報告の電話をしたら、無事に帰ったか、そうか、異動だ、って言われて。成田離婚ならぬ成田異動(笑)。

それはまた衝撃的なタイミングですね

person_fujisawa_02.jpg藤澤今思えば、カナダに行く前から上司はわかっていて、私に配慮して黙っていてくれたんだろうと思うんですが、当時の自分は、SLAの大会に行って色々刺激を受けて、司書としてのテンションも最高になっていたところで異動を知らされて、もう、わけがわからないという…。

結局、入社から2年3か月での異動。うちの会社は、技術系新入社員の研修期間は3か月くらいあって、私も他の技術系の人たちと一緒にビールの仕込みを学んだりしました。だから、司書として図書室で実際に働いていた期間はとても短かったですね。色々な偶然が重なってそういう人事になったようなんですが、その異動は自分にとってはターニングポイントとなる出来事でした。

商品開発部での再スタートは、どんな感じだったんでしょうか。

藤澤異動先は、ウィスキーのプロとか、焼酎のプロとか、会社が進めてきたM&Aの結果として、異なる企業風土を背負ってやって来たそれぞれのプロフェッショナルが集まっている、そんな部署でした。みんな自分の意見をはっきりと持っているので、日々異種格闘技戦みたいな現場でした(笑)。

商品開発というのは、コンセプトを形にする仕事なので、強い意志がないとできる仕事じゃないんですね。そんな中に若い女性が一人放り込まれて、「お前は何ができるんだ」と聞かれるけど、受身でそこにいる私はどうしていいかわからないという状況で。しかも当時は、行きたくて行ったわけじゃないので「そんなこと言われても」という気持ちもあって…。耐えられなくなって、仕事中に泣いて会社を脱走したり、辞表出そうとしたり(笑)。

ただ図書館から離れたということだけじゃなくて、行った先はまた大変な環境だったわけですね。

藤澤ええ。周りの人も大変だったと思うのですが、結局周囲の助けがありどうにか辞めずに続けることができまして、商品開発部にはそこから丸6年いました。ウイスキーやリキュールの商品開発をし、後半は営業支援の仕事で、商品プロモーションをやっていたのですが、そのとき感じたのが「時間軸」のことでした。

私は時間軸の長いもの、たとえば図書館は情報を過去から引き継いで未来に向かって渡していくのですが、そういうものが好きだということに気づいたんですね。ウイスキーの仕事もそうでした。ウイスキーの熟成にかかる時間や、自然環境とのかかわり、10年20年の世界ですので、仕事を次の世代に託していくんです。

だんだん司書の仕事が恋しくなっていた時に、会社がこういう場所(ラボ・ガーデン)を新しく作ることになって、企画担当者として私が選ばれたんです。場所が大阪ということで、家族とも離れることになるのですが、やらないよりやってみたほうがいいと思いました。

ラボ・ガーデンでの挑戦

person_fujisawa_03.jpgラボ・ガーデンについて少しご紹介いただけますか。

藤澤アサヒ ラボ・ガーデンは、2011年4月にオープンした、アサヒグループがつくる食と健康のコミュニケーションスペースです。「社会と、育つ。」をコンセプトに、場に3つの機能「イベントスペース」「リフレッシュスペース」「ライブラリースペース」があり、多様な人びとが出会い、交流する時間を通じて、心とからだ、そして社会がすこやかに育つ流れを生み出したいと思っています。ライブラリースペースは、食と健康をテーマにした蔵書が約1500冊あります。

今日のような平日の昼間も、ビジネスマン風の人や学生風のグループなど色々な人たちが滞在していますね。

藤澤営業時間は11時から20時までで、イベントを行っていない時間は利用規約の範囲内で自由に利用することができます。WiFiもあり飲食可能なので、時間帯でさまざまな方々がいらっしゃいますね。

イベントスペースのようでもあり、ライブラリーやカフェのようでもあり、ショールームの要素もあり、面白い空間ですね。

藤澤会社としてもこういう場を作るのは初めてのことで、最初はざっくり年間5万人来場という目標がありました。最初の2年はとりあえずそれを死にもの狂いで達成しました。場所を知ってもらうきっかけにイベントをほぼ1日1回の回数で実施してきました。

営利企業の中で、直接的に利益を生まないモノを会社から評価してもらうというのは、なかなか大変なことですよね。これは、一般に図書館が抱えている悩みとも似てますが。

藤澤まったく同じ悩みです。大事なのは持続可能性だと思っているんですが、ここはコスト・センター(コストだけが集計され、収益が計上されない部門)です。そのなかで、金銭的じゃない価値が会社に還元されるというのをどうやって”デザイン”するかというのが大事で、そのために、「構造をデザインする」ということをやりました。

person_fujisawa_04.jpgイベント参加者やリフレッシュスペースの利用者について目的に合わせて構造を見える化し、それぞれへのアプローチをわけています。特に、共創型の双方向コミュニケーションを重視していて、さまざまなテーマでこの場所の可能性を一緒に作っていってくれる人たち。そういう人たちと未来に向かって実験をしています。具体的には、社会性(よりよい社会を実現したい想い)と事業性(企業としての関わり)を両立させるようなコミュニケーションプログラムがあります。そうすることで、関わるそれぞれに利点があるので、持続可能性が高くなりますね。

これは、図書館にも通じると思います。本を貸し出すだけでは一見利用者しかメリットを受けていない。図書館の価値を高めていくために、利用者が協力者になって相互依存の関係になっていく必要がある。そこで、人と人をつなぐとか人と資料をつなぐとかいうことをやって、可視化しづらいけれどそういう枠組みを作っていくと、図書館の価値は変わっていくのではないかと思います。コスト・センターだからこそ、守りに入ってしまったらだめだと思うんです。

図書館だけでなく、金銭的な評価がしにくい活動や組織全体に通じることですね。

藤澤そうですね。まだここも、社内外での認知度は低いので、存在価値をアピールするということはやっています。それでもまだできていない、つながらないことは山ほどあります。でも、ここは「はじまり」とか「可能性」の場所。そういうところに自分たちがいると自覚してやっていくことが大事なんじゃないかと思っています。

最初はスタッフも今より少なくて、企画も運営も自分でやっていたので本当に大変でしたが、3年目をむかえるにあたり人を増やしてもらえたことで、思考にまわせる時間がとれました。図書館はひとりでまわしているところも多いので、大変ですよね。目の前のことに追われる気持ちはとてもわかります(笑)

まだまだとおっしゃいますが、スタッフが増えたということは、会社内でこういう場所の必要性が理解されてきている証でもありますよね。

滞っているものをうまく流したい、という感覚

こちら(大阪)に来てから、仕事の傍らで経営学を学ぶ専門職大学院に入られたそうですね。

藤澤はい、おかげ様で先日無事修了することができました。

おめでとうございます!…経営学を学ぼうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

藤澤理由は2つありまして、1つは関西に知人がいなかったので、自分の課題解決につながるような知的生産性のある会話をできる人たちと知り合いたかった。もう1つはこれまでのキャリアでM&Aによるシナジー効果をだすことの難しさを実体験していて、組織全体を運営することに漠然と興味がありました。ひとりひとりの能力が、もっと活かせるようにできないのかな、この滞りはどうしてなんだろうってずっと考えていたんです。

神戸大学大学院の経営学研究科を受験し、受かって、入ってみたら、目からウロコ。いかに自分が近視眼的だったかわかりました。日本企業の過去からの経緯や他の企業の問題についても、ニュースで聞いていたのとは受け止め方が変わってきましたね。

経営、マネジメントという視点で捉えなおして、最初の疑問は解けましたか?

藤澤結論としては、これからの時代、社員をコントロールする形で会社という組織が成果を出していくのは、なかなかもう難しくて、だったら逆にのびのびさせてその人に向いた仕事を見極めてやらせるほうがいいんじゃないかと。マネジメントでは、効率的であること、無理・無駄がないことは大事ですが、では今の、どの部門の社員もオフィスで働くスタイルが本当に効率的なのか?と考えたとき、もっと、人間の本能に近い、生態系のような働き方をやっていけたらいいなと思うようになりました。

今、さまざまな場所でシェアオフィスやコワーキングスペースがあり、場所にとらわれない働き方もでてきていますが、知の交流のための場の可能性はあると思います。

なるほど。生態系という表現は面白いですね。
それにしても、ラボ・ガーデン立ち上げから新しい仕組みづくり、そして社会人大学院と、この多忙な3年間の藤澤さんを動かしていた原動力はなんなのでしょうか?

藤澤そうですね、自分を諦めたことでしょうか。私はここに異動してくる前に関わっていた業務を、結果的には放棄して、ここの企画の仕事に就いた。そうせざるを得なかった自分の性癖というか、どうしようもなさみたいなものを、諦めて、受け入れたわけです。

「諦める」という言葉は意外でした。

藤澤自分なんてそうたいしたもんじゃない、と思ったほうが結果的にうまくいくというか。最初にライブラリーから異動した時も、自分は司書しかできないと思っていたら、行き詰って会社を辞めていたと思うんですけど、まあ自分なんて別にたいしたことないんだからあんまり決めつけないでやってみようと思った。

以前、後輩から「仕事を辞めたい」という相談を受けたときにも、まあ辞めてもいいと思うけど、うちの会社には今あなたがやっている仕事以外のあらゆる仕事があるからもったいないよ、って言ったんです。自分にはこれしかないって決めつけないで他を見てみたら、と。結局その後輩は今は別の部署で元気でやってて、良かったなと思っているんですが。人は「好きなこと」を仕事にしようと思うのだけれども、本当は「自ずと得意なこと」の方がその人にとって「楽」なので、無理なく続けられるように思います。

それは、先ほどおっしゃった「のびのびさせてその人に向いた仕事を見極めてやらせる」というマネジメント方法ともつながるものですね。

藤澤そうですね、理想論と言われるのは承知で、自分にとって「楽な仕事」を知ることは自分にとってエコだと思うんです。

そこにも、藤澤さんの「持続可能性」を大事にする考え方が生きていますね。

藤澤もともとそういうものが好きだから図書館に惹かれたんでしょうね。続いていくもの、文脈があるもの、引き継いでいるということが好き。会社ならヒト・モノ・カネ、人ならスキルや想いや体。そういう、持っているリソースのもとで、これからどういう物語を紡いでいこうかという視点で考えるのが好きですね。

将来のこと

最後に、個人としての藤澤さんが、遠い将来、それこそ30年後とかに何をしたいか、していると思うかについてお聞きしたいのですが。

そうですねえ、とりあえず柴犬を飼いたいですねえ。

柴犬?!

ずっと言ってるんですが、家族に、「お前を飼うので手一杯だ」と言われてて(笑)

それは…(苦笑)

person_fujisawa_05.jpg藤澤まあ、それは冗談として、なにかのコミュニティを運営してるんじゃないかな、と思います。

「まちライブラリー」[※1]の磯井さんという方は、全国に活動拠点をもっていて、いつも飛び回っている人なんですけど、ああいう生き方はいいなと思ってます。飛び回っているというのはつまり何をしてるかというと、それぞれの場所の「情報」を持って回っているんです。ハチが花を飛び回って受粉させているように。そうするとまた、行った先で新しいつながりが生まれ、なにかが前進する。そういうことをやっていきたいですね。

自分の中では、商品開発部に異動後、「お前は何者なんだ」と聞かれて苦し紛れに「私は司書です」と答えたときから、まったく違う仕事をしているときでも「司書とは何ぞや」というのをずっと考え続けているんですが、司書というのはただ分類をしているんじゃなくて、たくさんあるリソースを、つないだり整理したりということをより良い未来にむかってやっているんだと思うんです。だから、自分の中では「つなぐ」という仕事も、司書の仕事とつながっていますね。

どうもありがとうございました。


今日うかがった話の中には図書館が抱える悩みを解決するかもしれないヒントがたくさんあったように思います。

これからもJcrossでは藤澤さんの活躍を応援したいと思います。

なかの人たちのとある一日

10:00 出勤:内勤作業(イベント企画打合せ準備、日程調整、物品手配等)
11:00
12:00
13:00 昼休み
14:00 来客・打合せ
15:00
16:00 イベント物品準備(ウイスキーをグラスに注ぐ等)
17:00 講師到着・会場準備
18:30 イベント受付開始
19:00 イベント開始
20:00 イベント終了
片付け
21:30 帰宅
このエントリーをはてなブックマークに追加