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お仕事見学

読書通帳で読書の楽しみを!ウパっちが内田洋行を訪問

掲載:2019年4月26日

第9回 株式会社内田洋行

ウパっちはとある企業図書館に住むウーパールーパー。

いつものように書架でのんびりしていると、テーブルの上に銀行通帳が置いてあるのが目に留まりました。でも普通の通帳とちがう・・・あ、もしかして読書通帳?

「よく知ってるね」とうしろからおじさんの声が。
「中も見てごらん。これは読書通帳機で自分が読んだ本を印字できるんだよ」

こうしてみると、本当に銀行通帳みたい。

気になったウパっちは読書通帳機を作っている内田洋行という会社に行ってみることにしました。

向かったのは、八丁堀駅から亀島川をこえてすぐのところにある、株式会社内田洋行本社。

内田洋行本社

到着すると、ユビキタスライブラリー部の皆さんが笑顔で迎え入れてくれた。

今回、案内をしていただいたのは、ユビキタスライブラリー部の中賀部長、有賀さん、中田さん、阿比留さん、千野さんの5名。

築45年という本社ビルは、6年ほど前に全館をリノベーションしたそうで、LEDを全館に採用するなど省エネ効果を重視し、また同社のICT技術、製品を活用して整備されている。

「45年経ってもここまでできるんですよ、というのがこのビルです。ユビキタスワークプレイスを実現するためにリノベーションして、こうした古い建物でもそれが可能だという実例ですね」

まさに、本社そのものが内田洋行という会社のショールームだ。

一方、技術的な側面だけでなく、例えば、非常階段の壁面にはイラストが描かれていたりするなど、遊び心も含め、居心地の良い空間とするための工夫もあちこちにみられる。

階段の踊り場には各階ごとに異なる絵が描かれている

内田洋行ってどんな会社?

本社の入口、受付の前を通ってその奥には、少し薄暗い部屋が見える。

部屋の中央には大きな丸いテーブルが設置され、周囲の壁面には社史とともに、そのときどきの製品を紹介する写真がずらりと並ぶ。

「とにかく製品数は多いですね (笑)」

誰もが良く知る「マジックインキ」も内田洋行が商標をもっている。

「写真にまじってキューブのようなものが壁にうめこんであるのがわかりますか?それをテーブルの上に置いてみてください」

言われた通り置いてみると、テーブル上に製品に関連する情報が浮かびあがるように表示された。

「キューブにICタグが埋め込まれています。これは『プロジェクションテーブル』という製品なんですが、このテーブルはできるだけ自然にみえるようスクリーンの境界がわからないようにするとか、技術陣がこだわって作ったものです」

プロジェクションテーブルウパっちも興味津々

進化する学校

オフィス関連の機器や情報システムをあつかう内田洋行は、学校教材も多く取りあつかっていて、学校・教育分野や公共施設等に関連する製品や事業を多く展開している。

最初に案内していただいた「フューチャークラスルーム」[※1]は、そんな学校教育現場の未来を体験できるショールームだ。

前方と左右の壁は一面の巨大なスクリーンで囲まれていて、スクリーンにはそれぞれ2台のプロジェクターを使用している。プロジェクターから投影される映像は、PCから簡単に操作でき、スクリーン上部に設置されたセンサーで、スクリーン上に手書きの文字や線を加えたり、タッチパネルのような操作が可能になっている。

「ITなしでは効率があがらない時代になってきていますが、例えばお年寄りの方とか、必ずしも誰もがそれを使いこなせるわけではありません。なので、自分たちが使えるITではなくて、お客さまが使いこなせるITでないといけないんです。私たちの仕事は教育現場に大きく関わっていますが、専門の技術者がいなくても、使いこなせるもの、使い込んでいけるものでなくてはいけない」

この日は、大阪支店にある同様の部屋でもセミナーが開催されており、その様子もスクリーンに投影されていた。これを使えば遠隔での授業やミーティングも行えるわけだ。

「教育現場、学校はどんどん変わっていっています。そうした変化、これから未来に向けてどうなっていくのかを、学校の先生方や大学の先生方をはじめ、皆さんにここで実験していただけるような場にしています」

「だから、この『フューチャークラスルーム』も、設備や備品も含めて常に入れ替わっていくので、例えば来年また来ていただければ今日とは違うものをお見せできると思いますよ」

ユビキタスライブラリー部の中賀部長

学校でもICTが活用され、日々進化している。

「学校と言えば、百葉箱って小学校とかでよく見かけましたよね。昔の百葉箱は観測するためにはそこへ行くしかないんですけど、今ならそれをセンサーで計測してインターネット経由でその情報を収集することができます」

「弊社に『IoT百葉箱』という製品があるんですが、そうやって収集した情報を地図上に表示することができて、ひと目で各地の気温や湿度といったものがわかる。IoTってよく言葉として聞きますが、でも、実際のところIoTと言われても何をすればいいのかよくわからなかったりします。これは技術的にはごくありふれたものなんですけど、どういうものなのかは子どもたちにもわかるんですよね」

「そして、収集したデータが蓄積されていけばビッグデータにもなります」

図書館をより便利にする

「フューチャークラスルーム」を出ると、すぐ隣には図書館のように書架が設置されていて、その横に読書通帳機が置いてあるのを見つけた。

「こちらが弊社が取り扱っている読書通帳機です。銀行通帳のようなこの冊子に読書の記録を印字して、自分の読書履歴をを可視化しようというものです」

読書通帳機

読書通帳機については、このあとで小型版の「読書通帳機mini」を見せていただけるとのことで、そのときにまたお話をうかがうことにする。

読書通帳機の隣、書架の側面にモニターと小さな棚というかテーブルが設置されている。

「これは自動貸出機ですよ」

これが? と思わず声にでてしまうくらいにコンパクトだ。

ウパっちも自動貸出機を試してみる

「このテーブルに本を置いていただいて、本に貼られたICタグを読み取って処理をします。機能的には一般的な自動貸出機と同様なんですが、書架の側面に組み込んだというところがこれの特徴ですね。場所がとれないところでも取り付けることができます」

こうして書架と一体化して設置されていると、図書館の風景の中に溶け込んで違和感がない。

そして、隣の書架の側面にもまたモニターが設置されている。

「こちらは『オイテミンホン』という製品で、モニターの下の部分にICタグが付けられた本をかざすと、その本に関連する情報が表示されます」

オイテミンホンの説明をする有賀さん

表示された関連資料の詳細を見て、さらにそこから、といった具合に一冊の本から新しい出会いが広がっていく感じが楽しい。

「この『オイテミンホン』ですけど、図書館にICを入れ始めた当初、ICの使い道って貸出やセキュリティゲートぐらいしかないというお話をいただいて、何かもう少し付加価値を付けられないかというところから生まれました。ウチもそんなに大きな部署でもないので、営業が企画もしながらやっているようなところがあって、そういうところからアイディアがでてきたりもします(笑)」

人に優しい空間づくり

さて、本社ビルを案内していただいた後は、隣の第二オフィスに移動。

第二オフィスは、本社ビルに隣接する地上20階建てのビルにある。同ビルは8階までが内田洋行の第二オフィスで、それより上階はマンションになっているとのことだ。

「本社ビルのような古い建物で実現した様々な仕掛けやそのための技術、それを新築の建物に用いたらどういう風になるのか、というのがこの第二オフィスです」

第二オフィスのエントランス

ビル内は、センサーにより室内灯や窓のブラインドがコントロールされていて、ミーティングルームの前には部屋の利用状況の確認や予約ができるタッチパネルが設置されている。

「これと同じものがエレベータ―ホールのところにも設置されています。ちょっと部屋が必要になったときも、フロアを歩き回らなくてもここで探すことができるんですよ」

ICT関連の製品や事業をあつかう内田洋行は、同時に自分たちの職場環境の改善にも積極的にICTを取り入れ、働き方改革の推進に大きく寄与している。

各セクションの室内はフリーアドレスで、什器は自社製品を活用し、ケーブルやOA機器が空間を邪魔しないように工夫されている。

席のレイアウトはさまざまで、方向も並行にならんでいるわけではない。スタンディング用のテーブルスペースや、ボックス席のようなところ、窓側を向いた席など。

「半年から1年くらいでレイアウトは見直しています。使い勝手によって変更するんです。オフィスは自社の製品で構成しているので、まずは自分たちで使って試行錯誤してみないとだめですからね」

フロアの入口付近には、休憩室も兼ねた共有スペースが設置されており、小鳥のさえずりなどのBGMが流れている。

共有スペースの様子

共有スペースには木製の什器が使用され、隣接する階段の床板には木材とともに、木の香りや木の風合いからくるぬくもりにつつまれている。

そういえば、第二オフィスの入口のロビーも木材が多用されていた。

「弊社の教育関係の事業でいうと、ひとつ、テーマなのが木を使うということなんですが、そこにかなり力を入れています[※2]

効率や利便性を考慮しつつ、そこにいる人たちが気持ちよくすごせる場所。そんな空間づくりが内田洋行の強みだと感じた。

読書通帳に込められた思い

最後に、ユビキタスライブラリー部の皆さんが働くオフィスがある東陽町に移動した。

案内されたのは「ランチルーム」と書かれた部屋。

ランチルーム

まるで、学校の教室のようなこの部屋は、文字通り社員がランチルームとして使用したり、ちょっとした休憩に利用したりできるようになっている。

ここもやはり、木のぬくもりが感じられる空間だ。

ランチルームの様子

部屋の中には、先ほど本社にあった読書通帳機の小型版「読書通帳機mini」が置かれていた。

「読書通帳にはICタグが付いているんですが、最初にこのICタグに利用者番号を登録していただく必要があります。大きい方の読書通帳機では利用者さんが自分でその登録ができます。読書通帳機miniの場合はそれができないので、使用する前に職員さんの方で(通帳の)登録をしていただきます。そういう機能を制限する分、費用をちょっと抑えています。大きな違いはそのあたりでしょうか」

読書通帳機ミニ

自分の読書の記録を確認するだけなら、今なら、オンラインでもできてしまうのに、あえて「通帳」というかたちなのが面白い。

「読書通帳もオンラインでできないかというお話もいただきます。しかし、この通帳というかたちがあるから子どもさんとかにも喜んでいただける。そこはこだわりがありますね」

読書通帳機ミニの説明をする阿比留さん

「子どもさんがですね、実際に本を読んで、通帳をめくると自分が読んだ本が印字されている。やっぱりこういうのが面白いんですね。それに、自分のお父さんお母さんが使っている銀行の通帳、それと同じものを僕も使っているぞ、という気分で。そういう興味もそそる仕掛けとして、読書通帳を作りました」

子どもたちが、通帳をいっぱいにするのを目標にしたり、自分がどれだけ読んだかというのを互いに競い合ったり。そういうことが読書のきっかけになったりするのが目に浮かぶ。

「学校では読書習慣をつけていくための動機付けにしているんですね。そして最後に、これが6年間であなたが読んだ財産だよ、と」

「それとこの読書通帳って、学校や図書館がそれぞれで発行しているので、そこでないともらえない通帳なんですよね。奈良学園さんだからこの通帳、恩納村にいるからこの通帳がもらえる。例えば八尾市立図書館さんは地元出身の童画家の方が表紙を書いていたり。下松市立図書館さんは、市民のイベントで大きな板面に来場者が手形を残すという企画があって、そのときの完成した絵を図柄として使っているんですよ[※3]

印字された読書通帳

中賀部長には、学生時代にもっと図書館を活用できていればという思いがあるそうだ。

「偉そうに言ってますけど、学生の頃はあまり図書館を使っていなくて、やはり受験勉強の頃にお世話にになっていたという印象ですね(笑)。でも、こういう仕事してみて初めて分かることも多くて、当時は図書館の大切さをどれだけ認識できていたのかなと考えたりします」

「だから、そのときの自分の気持ちに立ってみて、そういう人たちでも来てもらえる図書館ってどういう図書館だろう、と考えます。かつての自分のようにあまり利用していない人に来てもらえるようにするにはどうするか。そこに僕らの提案できる何かがあるのかな、と思っています」

加えて、当時の図書館と比べると、今の図書館は大きく雰囲気が変わってきているとのこと。

「全然、変わってきていますよ。公共図書館さんとかもずいぶん努力されているのを見てきました。図書館が元気なところ、図書館を元気にしようと頑張っている人のいるところともっとつながることができて、何かできればよいですよね」

「昔の学校図書館とか閲覧席が食堂のようにシンプルに並んでいた印象があります。でも今なら、学校だからこそいろんなシチュエーションで本を読ませてあげればいいんじゃないかと思います。人目のないところでひとりで集中して読みたい子だっている」

「図書館においでよ、という感じで、子どもたちが気軽に来られる。そんな場所であってほしいですね」

今回案内していただいた皆さん
(左から)有賀さん、中賀部長、千野さん、中田さん、阿比留さん

見学のあと、ユビキタスライブラリー部の皆さんとお話をしながらウパっちは思った。

読書通帳機もそうだけど、図書館や学校向けのさまざまな製品はすべて、子どもたちをはじめ、そこを利用する多くの人たちの気持ちに寄り添っているんだ。

みんなが集いたくなる空間。

ウパっちのいる図書室もそんな場所になるように、帰ったらおじさんと話してみよう。

本記事の内容は取材時(2019年2月)のものです。
会社情報
株式会社内田洋行
株式会社内田洋行
https://www.uchida.co.jp/